感電保護に必須な漏電遮断器の基礎知識と選定方法|シーケンス制御ハード設計基礎

この章のまとめ
  • 漏電遮断器は過電流による配線保護と漏電による感電事故を防ぐためのもの
  • 漏電遮断器の性能は以下の7点で表される
    • アンペアフレーム(AF)
    • アンペアとリップ(AT)
    • 極数(P)
    • 定格絶縁電圧(V)
    • 定格短絡遮断容量(kA)
    • 定格感度電流(mA)
    • 動作速度(瞬時形、時延形)
  • 感電事故防止が目的の場合、感度電流30mA、動作時間0.1秒以内の漏電遮断器を選定する
  • 漏電火災防止が目的の場合、感度電流100mA、動作時間0.3秒-0.8秒の漏電遮断器を選定する
  • 漏電遮断器を上位と下位に設置する場合、上位は下位よりも動作時間を遅くすること(地絡保護協調)
  • ブレーカーの基本的な選定方法は下記の通り
    • 負荷の定格電流×安全率を定格遮断電流とする
    • 動作特性曲線を確認し始動電流が瞬時引きはずし領域以下であるかを確認する
    • 始動中の電流が時延引きはずし領域の最小以下となるか確認する
  • 感電事故防止目的での感度電流の選定方法は以下のとおり
    • 負荷の直上なら30mA
    • 主幹ブレーカー(50A未満)なら30mA
    • 主幹ブレーカー(50A以上)なら100mA ※要接地

この章では、漏電遮断器の役割と選定方法について学びます。

漏電遮断器は配線遮断器(ブレーカー)に漏電検知機能を付加したもの。

漏電は非常に危険で、知らずのうちに感電し命を落とすことも。

そんな漏電から、ヒトモノを保護する役割を持つのが漏電遮断器です。

ブレーカーについてはこちら

サーキットプロテクタについてはこちら

目次
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漏電遮断器とは過電流に加えて漏電を検知して回路を遮断するブレーカー

漏電遮断器とは、過負荷や短絡による二次側の過電流から配線を守り、漏電による感電から人体を守る機器です。

漏電ブレーカーとも言います。

配線遮断器(ブレーカー)との大きな違いは、漏電を検知できる機能を備えている点。

定格感度以上の漏れ電流を検知すると回路を遮断(トリップ)し、感電事故を未然に防ぎます。

そんな漏電遮断器について、設計者が知っておくべき各種仕様の意味は下記のとおりです。

設計者が抑えるべき漏電遮断器の仕様一覧
  • フレームサイズまたはアンペアフレーム(AF)
    • 漏電遮断器本体に常用で流せる電流の最大値
  • 定格電流またはアンペアトリップ(AT)
    • 漏電遮断器がトリップする電流の大きさ
  • 極数(P)
    • 電線を接続できる本数
  • 定格絶縁電圧(V)
    • 漏電遮断器が耐えられる最大電圧
  • 短絡遮断容量(kA)
    • 短絡事故発生時に漏電遮断器の遮断能力が確保できる最大電流
  • 定格感度電流(mA)
    • 漏電遮断器がトリップする漏洩電流の大きさ

アンペアフレーム(AF)とは漏電遮断器に常用で流せる最大電流のこと

アンペアフレーム(AF)とは、漏電遮断器本体の大きさ及び設定できる最大の定格電流を意味します。

125AFの漏電遮断器なら、最大125Aの定格電流まで設定可能です。

アンペアフレームを超える定格電流を設定したい場合は、アンペアフレームを大きくしないといけません。

150Aの定格電流を設定するなら、150AF以上のフレームサイズを選定する必要があります。

アンペアトリップ(AT)とは漏電遮断器が作動する定格電流のこと

アンペアトリップ(AT)とは、漏電遮断器が過電流でトリップする定格電流のことです。

電流が定格電流値を越えると、動作特性に従ってトリップします。

動作特性についてはこちら

たとえば50ATの漏電遮断器なら、50A超の電流でトリップするといった具合です。

アンペアトリップの値は、アンペアフレーム(AF)を超えて設定できない点に注意してください。

必ず『アンペアフレーム(AF) ≧ アンペアトリップ(AT)』となるよう選定します。

極数(P)とは電線を接続できる本数のこと

極数とは電線を接続できる本数を指します。単位はP(Pole)です。

三菱電機製 漏電遮断器 NV30-FA 15A 30mA 2P品

三菱電機製 漏電遮断器 NV30-FA 15A 30mA 3P品

主に、2極品と3極品が販売されています。

定格絶縁電圧(V)とは印加できる最大電圧のこと

定格絶縁電圧とは、耐電圧試験により証明された安全にブレーカーを使用できる最大電圧です。

いかなる場合でも、定格絶縁電圧を超える電圧を印加してはいけません。

漏電ブレーカーの故障や火災に繋がります。

定格短絡遮断容量(kA)とは短絡事故発生時にブレーカーが安全に遮断できる最大電流のこと

定格短絡遮断容量(kA)とは、短絡事故発生時に漏電ブレーカーが安全に回路を遮断できる最大電流のことです。

電流が定格短絡遮断容量を越えると、損傷を受けて故障したり回路を遮断できない場合があります。

定格短絡遮断電流に対して、流れた短絡電流の程度における漏電ブレーカーの変化は下記のとおりです。

漏電ブレーカーに流れた短絡電流の程度漏電ブレーカーの変化
定格遮断電流の0.5倍以下安全に再利用できる
定格遮断電流の1倍漏電ブレーカに若干の破損が見られる
交換を推奨する
定格遮断電流の1.5倍漏電ブレーカーは損傷する
交換必須
定格遮断電流の2倍以上漏電ブレーカーは損傷し、アークが長時間発生する
場合によっては回路を遮断できない
参考元:短絡電流が流れたブレーカーはどうなるか教えてください Panasonic

定格感度電流(mA)とはブレーカーが作動する漏洩電流のこと

定格感度電流とは、電路に漏電が発生した際にトリップさせる漏洩電流の基準値です。

漏電ブレーカーは定格感度電流の50%以上から引きはずし動作をおこなうよう調整されています。

JIS(JIS C 8201-2-2)で規定されている漏電遮断器の漏洩電流に対する動作特性は以下のとおり。

  • 定格感度電流I△n
    • 漏電遮断器が確実に動作しなければならない電流値
  • 定格漏電不動作電流I△no
    • 漏電遮断器が規定条件で動作しない電流値、最小値は0.5I△n

漏電遮断器の定格感度電流を選定する条件

漏電遮断器の定格感度は『高感度形』『中感度形』『低感度形』の3種類に分けられます。

各種類に対応する定格感度電流の値と、選定条件は下記の表を参照してください。

感度電流使用条件
高感度形15mA
30mA
水気がある場所や感電のリスクが高い場所
活線接触による感電でも保護する場合
移動・可搬形機器で設置が確実に取れない場合
中感度形50mA
100mA
200mA
500mA
大容量の回路で高感度形では誤動作する場合
機器の接地が確実におこなわれている回路
低感度形1000mA~20A以下アーク地絡損傷保護を目的とする場合
https://www.tempearl.co.jp/products/cate/files/catalog/1989-1990/1989-0292.pdf

シーケンス制御におけるハード回路設計での使い分けは、下記のとおりです。

  • 高感度形
    • 人体保護が目的
  • 中感度形
    • 制御機器の保護が目的
  • 低感度形
    • ほぼ利用することはない

漏電遮断器の定格感度は、客先の安全仕様によって異なるため、あくまでも参考程度としてください。

瞬時形と時延形の使い所

漏電時の遮断動作には動作時間が設定されており、JIS C8371において『瞬時形』と『時延形』の2種類が定義されています。

瞬時形は動作時間0.1秒以内で人体保護が目的

瞬時形は漏電を検知してから回路遮断までの動作時間が0.1秒以内と、高速に設定されています。

これは短時間で回路を遮断し、感電事故の被害を最小限に食い止めるためです。

感電による人的被害は『人体通過電流[mA]×時間[s]』で表され、時間を短くして被害を抑えようということですね。

また、感度電流が30mA以下の高感度形と合わせることで、より感電被害を小さくすることが可能です。

時延形は動作時間0.1~2秒以内で下位遮断器による上位遮断器の巻き込みトリップ防止が目的

時延形は漏洩電流検知から遮断まで、一定の送れ時間をもたせたものです。

上位の遮断器として利用することで、下位の事故回路からの波及を防止できます。

上記の場合、モーター1で漏電が発生したとき、下位のELCB2のみがトリップして上位のELCB1はトリップしません。

もしELCB2が故障してトリップしない場合でも、上位のELCB1がトリップしてくれます。

このような保護方法を地絡保護協調と呼び、複数の漏電遮断器を設置する際は巻き込みトリップがないよう設計すること。

ただし上位の漏電遮断器は動作時間が長いので、感電事故時の人的被害が大きくなる点に注意してください。

漏電遮断器の選定方法

漏電遮断器を選定するのに必要な情報は以下の3点です。

  • 負荷の定格電流
  • 負荷の突入電流
  • 設置の場所および設置の目的

項目①と②を使って、定格電流(AT)とフレームサイズ(AF)を決定します。

この2点の決め方は配線遮断器(ブレーカー)と同じなので、以下のページを参照してください。

ブレーカーの選定方法はこちらを参照

ここでは項目③の条件から、定格感度電流の決め方を説明します。

今回は感電による事故防止を目的に漏電遮断器を設置。

内線規程1375-2に従って、漏電遮断器の定格感度電流を決定していきます。

感電事故防止を目的として施設する漏電遮断器は、高感度・瞬時形のものであること。(感度電流30mA以下、動作時間0.1秒以内)

内線規定1375-2

漏電遮断器の要否判断

漏電遮断器は配線用遮断器と比較して高額です。

そのため設置するブレーカーをすべて漏電遮断器にするのはナンセンスです。

漏電保護の要否を判断し、必要な箇所にだけ漏電遮断器を設置します。

以下の表を参考に、漏電遮断器を設置するべき条件を確認してください。

漏電遮断器を設置する条件
  • 水気のある場所に設置した機器
  • 移動式、可撤式の機器で接地が取れない
  • 分岐回路の主幹ブレーカー(メイン)

水気のある場所に設置した機器

水気のある場所に設置する機器の保護には、必ず漏電遮断器を設置します。

浸水や含水により機器や電線の絶縁抵抗が下がりやすく、漏電しやすいためです。

移動形、可撤式の機器で接地が取れない

接地が取れない機器の保護にも、必ず漏電遮断器を設置します。

漏電時に接地極へ電流が逃げず、感電すると人体へ電流が流れるためです。

分岐回路の主幹ブレーカー(メイン)

いわゆるメインブレーカーとなる主幹ブレーカーには、漏電遮断器を設置します。

2次側の回路容量が大きくなりやすいため、感度電流を大きく設定する点に注意が必要です。

定格感度電流の選定方法

感電保護を目的に漏電遮断器を設置する場合、感度電流および動作時間は以下の条件をもとに決定します。

設置場所感度電流動作時間備考
分岐回路の主幹(50A以上)100mA0.1秒以内
(高感度)
要接地
分岐回路の主幹(50A以下)30mA50A以上で接地が取れない場合
負荷の直上30mA

50A以上の主幹ブレーカーについては、接地抵抗値によって感度電流が変わります。

感度電流接地抵抗値
水気のある場所その他
30mA500Ω500Ω
100mA250Ω500Ω
200mA125Ω250Ω
500mA50Ω100Ω

もし接地抵抗がわからない場合は、感度電流30mAを選定するのが得策です。

接地抵抗とは『電気装置→接地線(アース線)→接地極→大地』までの経路における電気の流れやすさです。単位はΩ(オーム)。値が大きいほど流れにくく、小さいほど流れやすいことを示します。
出典:接地抵抗とは 日本地工株式会社

適切な漏電遮断器を選定することで漏電による事故は防げる

この章のまとめ
  • 漏電遮断器は過電流による配線保護と漏電による感電事故を防ぐためのもの
  • 漏電遮断器の性能は以下の7点で表される
    • アンペアフレーム(AF)
    • アンペアとリップ(AT)
    • 極数(P)
    • 定格絶縁電圧(V)
    • 定格短絡遮断容量(kA)
    • 定格感度電流(mA)
    • 動作速度(瞬時形、時延形)
  • 感電事故防止が目的の場合、感度電流30mA、動作時間0.1秒以内の漏電遮断器を選定する
  • 漏電火災防止が目的の場合、感度電流100mA、動作時間0.3秒-0.8秒の漏電遮断器を選定する
  • 漏電遮断器を上位と下位に設置する場合、上位は下位よりも動作時間を遅くすること(地絡保護協調)
  • ブレーカーの基本的な選定方法は下記の通り
    • 負荷の定格電流×安全率を定格遮断電流とする
    • 動作特性曲線を確認し始動電流が瞬時引きはずし領域以下であるかを確認する
    • 始動中の電流が時延引きはずし領域の最小以下となるか確認する
  • 感電事故防止目的での感度電流の選定方法は以下のとおり
    • 負荷の直上なら30mA
    • 主幹ブレーカー(50A未満)なら30mA
    • 主幹ブレーカー(50A以上)なら100mA ※要接地

漏電遮断器は、漏電からヒトモノを守る安全において重要な機器です。

根拠のないずさんな選定は許されません。設計ミスによる漏電事故は設計者の責任です。

設計者であれば、少なくとも本ページの内容は必ず抑えておいてください。

また、以下のサイトも非常に有用なので、アクセスして知識をアップデートしておきましょう。

漏電遮断器関係の参考サイト

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