レベル3-3では、運転準備回路と非常停止回路を追加して安全回路を構築します。
この2つを追加する理由は、設備から動力源を遮断することで意図しない設備の動作を防ぐためです。
電気、エア、油圧などの動力源を有する設備において安全回路は必須なので、この機会に基礎を身に着けていきましょう。
今回学ぶ内容は、カテゴリ1の基本的な安全回路とします。
安全回路の要である運転準備回路、非常停止回路とは
回路設計をおこなう前に、まずは運転準備回路と非常停止回路について説明します。
運転準備回路
運転準備回路は、動力源の供給および遮断状態を制御するための安全回路です。
運転準備がオンの状態
可動部に対して電気、エア、油圧、水などの動力源を設備の各機器へ供給する。
スイッチひとつで動作可能な状態となる。
運転準備がオフの状態
可動部に対して電気、エア、油圧、水などの動力源をすべて遮断する。
どのような操作も受け付けず、設備は停止した状態を保持する。
単純な回路であれば、
- a接点スイッチ1つ
- b接点非常停止スイッチ1つ
- 1a接点のリレー1つ
といった3つの部品で構成可能です。
機器符号 | 用途 |
---|---|
PBRDY | 運転準備入用a接点押しボタンスイッチ |
EMG | 非常停止用b接点押ボタンスイッチ |
RYRDY | 運転準備入記憶用リレー |
運転準備回路の動作順序
- PBRDYをオンするとRYRDYもオン(運転準備入)
- 自己保持によりPBRDYをオフしてもRYRDYはオン状態を保持(運転準備入状態)
- 非常停止ボタンEMGを押すことでRYRDYの自己保持を解除(運転準備オフ)
運転準備回路は、汲み上げポンプを操作する回路とほとんど同じ。
自己保持を切断するのに非常停止ボタンを使用する点が違うだけです。
この回路は運転準備回路の基本となるので、必ず覚えておいてくださいね。
非常停止回路
非常停止回路は、運転準備状態を強制解除したり条件が揃わないと入れさせないためのものです。
運転準備状態を解除し動力源をすべて遮断させ、設備を完全に停止させます。
運転準備回路の中で非常停止回路となるのは、□で囲った部分ですね。
この部分に設備の異常や安全センサーの入力状態を追加することで、運転準備状態を解除できます。
運転準備を再投入する際は、非常停止回路が閉じていないと運転不可能です。
非常停止回路には非常停止ボタンを設ける
非常停止回路には非常停止ボタンを設けるのが定石です。
一般的には、プッシュロック式のb接点を使用した非常停止ボタンが使われます。
プッシュロック式スイッチとは、押した状態が機械的に保持される機構を持つスイッチのことです。
b接点を使用することで、押している間は非常停止回路が開いている状態となります。
回路が開いている状態では、不意に運転準備が投入されることはありません。
またロックアウトが可能なタイプを採用すれば、他人に非常停止ボタンを解除されるリスクを失くせます。
汲み上げポンプ運転回路に運転準備回路と非常停止回路を追加する
ここからは、レベル3-2までに作成した汲み上げポンプ運転回路へ運転準備回路と非常停止回路を追加します。
まずは完成形の回路を見てみましょう。
動力電源回路
制御電源回路
制御回路AC100V
制御回路DC24V
各回路ごとに変更点を見ていきましょう。
制御電源回路と制御回路(AC100V)
制御電源回路における変更点は、RYRDYの設定が追加されていることです。
- 制御用電源(AC100V)のL1、N1
- 制御・操作用電源(DC24V)のP24R
以上の2点が変更点。
電源回路にRYRDY(運転準備入)のa接点を追加したことで、L1・N1・P24Rへは運転準備の解除で電源が遮断されます。
このように電源供給を断つ回路を作ると、短絡や接点の固着による誤動作がおきても動力源を強制停止できるのです。
接点が固着してしまった場合
電源へ短絡してしまった場合
運転準備で電源を遮断していると…
このようにいかなる状況でも動作を停止させたい機器に対しては、運転準備で電源の供給・遮断ができるよう設計しましょう。
制御回路(DC24V)
DC24Vを使用した制御回路では、運転準備電源と常時電源の使い分けが求められます。
まずは回路の全体像を見てみましょう。
左側の電源部が『P24』の部分と『P24R』に分かれていることがわかりますね。
P24を電源とする回路が常時電源制御回路で、P24Rを電源とする回路が運転準備制御回路です。
常時電源制御回路
機器符号 | 用途 |
---|---|
RYCB | ブレーカー正常確認リレー |
RYRDY | 運転準備入記憶リレー |
RBRDY | 運転準備入スイッチ |
EMG | 非常停止ボタン |
PLRDY | 運転準備状態表示ランプ |
常時電源回路には、常に操作を受け付ける制御回路を設置します。
常時電源を使用する主な制御回路
- 運転準備回路
- 安全検出回路
- 故障検出回路
- 動作に関係しないランプやセンサー用電源など
これら以外にも、設置する制御機器に応じて常時電源回路へ組み込みましょう。
今回の回路では、
- ブレーカー正常(故障検出回路)
- ブレーカーの入れ忘れ、またはトリップをしていないことを確認する回路
- 運転準備入(運転準備回路)
- 運転準備状態を記憶する回路
- 運転準備入ランプ(表示灯回路)
- 運転準備状態を表示するための回路
の3つを常時電源としています。
運転準備投入から解除までの流れ
- 汲み上げポンプ漏電遮断器(ELB)とAC100V制御用電源サーキットプロテクタ(CP1)のONでブレーカ正常(RYCB)がON
- 運転準備ボタン(PBRDY)を押すと運転準備入(RYRDY)がオン
- RYRDYのオンで運転準備入ランプ(PLRDY)が点灯
- 非常停止ボタン(EMG)を押すと運転準備入(RYRDY)がオフし運転準備を解除
運転準備電源制御回路
運転準備回路には、動作用のインターロックや動力供給源となるリレーなどの機器を回路に設置します。
運転準備電源を使用する主な制御回路
- インターロック回路
- 動作・運転指令回路
- 動力源への電源供給回路
今回の回路では、
- 汲み上げポンプ運転インターロック(インターロック回路)
- 汲み上げポンプの運転インターロックを構成する回路
- 汲み上げポンプ運転指令(動作・運転指令回路)
- 汲み上げポンプ運転用電磁開閉器を操作する回路
の2つを運転準備電源としています。
上記の回路は、運転準備が入状態でなければ絶対に動作することはありません。
このように電源から遮断するで誤動作といった危険因子を設計段階で潰せるのです。
運転準備で電源を遮断していると…
電源を遮断する回路としない回路の2つを使い分けできれば、安全回路の考え方が身についていると言えるでしょう。
運転準備回路と非常停止回路を追加する回路はこれで完成
今回の内容は安全に関わる回路設計についての内容でした。
実際に設備を設計する中で、安全回路の設定は最も優先されるべき項目です。
より安全性を向上させた二重化回路やセーフティリレーユニットを理解するにしても、基本的な安全回路の理解は必須。
とても重要な内容なので、何度も読み返して理解度を上げていきましょう。
次は【レベル4】汲み上げポンプを自動で運転するへ
手動運転、安全回路など基本的な回路が完成したので、次項では自動化をおこないます。
現状だと水位センサーで運転を停止されると、再起動には人の手が必要です。
完全に自動で汲み上げポンプを安全に運転させることで、設備として成立させます。
次の章が最後となるため、頑張っていきましょう。
⇒【レベル4-1】自動モード・手動モードを追加する
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