- サーキットプロテクタの役割は2次側負荷の保護
- サーキットプロテクタとブレーカーの違いは定格電流と引きはずし電流の大きさ
- サーキットプロテクタの性能は以下の点で示される
- 極数(P)
- 定格電流(A)
- 定格遮断容量(kA)
- 電流の種類(AC/DC)
- 過電流引きはずし方式
- 過電流引きはずし方式は以下の5種類
- 瞬時形
- 低速形
- 中速形
- 高速形
- 低速形(イナーシャルディレイ付)
- 中速形(イナーシャルディレイ付)
- 定格電流の決め方は負荷の合計消費電流に安全率乗じた値より大きい最小の設定を選択する
この章では、サーキットプロテクタの役割と選定方法について学びます。
サーキットプロテクタとは過電流発生時に回路を遮断する機器です。
ブレーカーと似ているようで用途や役割が異なります。
各々の役割を理解して、回路ごとに適切な保護設計がおこなえるよう知識を身に着けていきましょう。
ブレーカーについてはこちら
サーキットプロテクタとは過電流や短絡から負荷を保護する機器
サーキットプロテクタとは、過電流や短絡による大電流から2次側の負荷を保護する機器です。
ブレーカーと同様に定格電流以上の電流が流れると、動作特性に従って回路を遮断します。
ブレーカーとの違いは定格電流の大きさと過電流に対する感度
サーキットプロテクタの説明をみると、ブレーカーと同じ役割に思えますが、
- ブレーカーは配線の保護が目的
- サーキットプロテクタは2次側負荷の保護が目的
という役割をもっており、以下の点で性能が異なります。
ブレーカー | サーキットプロテクタ | |
---|---|---|
極数 | 2極、3極 | 1極、2極、3極 |
定格電流 | 3A~1,200A | 0.1A~30A |
時延引きはずし電流 | 大きい | 小さい |
最小瞬時引きはずし電流 | 大きい | 小さい |
ブレーカーとサーキットプロテクタの大きな違いは引きはずし特性です。
ブレーカー『NF30-FA』とサーキットプロテクタ『CP30-BA(低速形イナーシャルディレイ付)』の動作特性曲線をご覧ください。
以上の2つは同じ定格電流の設定を持つももの、動作特性が大きく異なります。
サーキットプロテクタの場合、瞬時形や低速形を選択すればより引きはずし電流を小さくすることも可能です。
この特徴の違いから、設計時にブレーカーとサーキットプロテクタを使い分ける条件を考慮して選定をおこないましょう。
- ブレーカー
- 電動機やトランスなど大容量の負荷
- 始動電流が大きい負荷
- 過負荷容量が大きく、多少の過負荷で故障しない負荷
- サーキットプロテクタ
- リレーや電子回路、PLCなど小容量の負荷
- 始動電流が小さい負荷
- 過負荷容量が小さく、過電流で故障しやすい負荷
サーキットプロテクタの各種性能について
サーキットプロテクタにおけるカタログ記載の性能について、重要な5項目を紹介します。
- 極数(P)
- 定格電圧(V)
- 定格電流(A)
- 定格遮断容量(kA)
- 電流の種類(AC/DC)
- 過電流引きはずし方式
極数(P)とは電線を接続できる本数のこと
極数とは電線を接続できる本数のことを指します。単位はP(Pole)です。
1Pなら1本。2Pなら2本。3Pなら3本の電線を接続できます。
定格電圧とはサーキットプロテクタに印加できる最大電圧のこと
定格電圧とはサーキットプロテクタに印加できる最大の電圧です。単位はV(ボルト)。
ACとDCで上限電圧が異なるため、設計時には電源電圧が使えるかチェックしてください。
定格電流とはサーキットプロテクタが作動する電流のこと
定格電流とはサーキットプロテクタが動作を開始する電流のことです。単位はA(アンペア)。
ブレーカーと違い、標準定格電流は0.1A~30Aと小さい点が特徴。
サーキットプロテクタに流れる電流が定格電流を越えると、動作特性に従って回路を遮断します。
定格遮断容量とはサーキットプロテクタが安全に回路を遮断できる限界の電流のこと
定格遮断容量とはサーキットプロテクタが安全に回路を遮断できる限界の電流です。単位はkA(キロアンペア)。
短絡事故時に耐えられる電流の限界と考えてOKです。
サーキットプロテクタに流れた電流が定格遮断容量を越えると、故障したり回路を遮断できない場合があります。
サーキットプロテクタに流れた短絡電流の程度 | サーキットプロテクタの変化 |
---|---|
定格遮断電流の0.5倍以下 | 安全に再利用できる |
定格遮断電流の1倍 | サーキットプロテクタに若干の破損が見られる 交換を推奨する |
定格遮断電流の1.5倍 | サーキットプロテクタは損傷する 交換必須 |
定格遮断電流の2倍以上 | サーキットプロテクタは損傷し、アークが長時間発生する 場合によっては回路を遮断できない |
電流の種類とはサーキットプロテクタに接続できる電圧のこと
電流の種類とはサーキットプロテクタで利用できる電圧のことです。
- DC専用品
- AC専用品
- AC/DC専用品
の3種類があります。
未対応の電源電圧を印加すると故障または正常に機能しないため、必ず電流の種類をチェックしてください。
過電流引きはずし方式とは過電流に対する遮断感度のこと
サーキットプロテクタは、過電流に対する遮断感度で種類が異なります。
- 瞬時形
- 高速形
- 中速形
- 低速形
- 中速形イナーシャルディレイ付
- 低速形イナーシャルディレイ付
※三菱電機 サーキットプロテクタから引用
シーケンス制御で主に利用されるのは、『瞬時形』『中速形』の2つです。
瞬時形→半導体素子を利用する電子回路の保護に利用
瞬時形は、定格電流を超えるといかなる状況でも瞬時に回路を遮断するサーキットプロテクタです。
半導体素子を利用している電子回路のような、過電流に対しての耐性が弱い機器を扱う回路に利用します。
たとえばPLCのユニット類は半導体素子により構成されているため過電流に弱い。
ユニット側で過電流や過加熱に対するセーフ機能を持っていますが、電源を遮断するのが得策です。
過電流を感知した瞬時に電源を遮断することで、機器の寿命を伸ばすことができます。
中速形→リレーやDCソレノイドの保護に利用
中速形とは、引き外し電流の設定がブレーカーに近いサーキットプロテクタです。
リレーやDCソレノイドなど、過負荷容量が大きく突入電流が発生しない回路の保護に利用します。
巻線のレアショートや配線の短絡による、大きな事故電流から負荷を保護することが目的です。
低速形→ACソレノイドを利用する回路の保護に利用
低速形とは、時延引き外しおよび瞬時引き外し電流が大きく設定されているサーキットプロテクタです。
主に、始動時間の長い負荷や突入電流が大きい負荷での誤動作を防ぐために利用します。
シーケンス制御での利用場面は、ACソレノイドの保護が代表的。
ACソレノイドは電源投入時に定格電流の10倍強の突入電流が発生するため、引き外し電流を大きく取る必要があるからです。
イナーシャルディレイ付を選定すれば、より引き外し電流を大きくできます。
サーキットプロテクタの選定手順
実際の回路をもとに、サーキットプロテクタを選定してみましょう。
今回の対象回路は以下のとおりです。
- 回路電圧はDC24V
- 保護する電線は2本
- 負荷はオムロンMY2N-D2 DC24Vリレー×20個
- オプション機能は不要
上記の条件においてサーキットプロテクタを選定する手順は下記のとおりです。
- 負荷の過負荷容量を確認する
- サーキットプロテクタの定格電流を決める
- 付属装置の有無を決める
負荷の過負荷容量とは、過電流に対する耐性のことです。
耐性は過電流の時間と大きさによって決まり、シーケンス制御のハード設計では過負荷耐性を下記の通り分類します。
- 過負荷耐性小
- 半導体素子を利用した電子機器
- 過負荷耐性中
- メカニカルリレー
- ヒーター
- DCソレノイド
- 過負荷耐性大
- ACソレノイド
- 電動機
- トランス
上記は凡例なので、使用する機器ごとに過負荷容量は異なります。
単純に当てはめるだけでなく取説の保護要件をチェックしてください。
今回の負荷はメカニカルリレーだけで構成された回路なので、過負荷耐性は中程度。
そのため、適切なサーキットプロテクタの感度は中速形となります。
オムロン製MY2N-D2 DC24Vリレーのコイル定格電流は36.3mAです。
コイル定格 | DC24V 36.3mA |
---|---|
コイル抵抗 | 662Ω |
動作電圧(セット電圧) | 80%以下 |
復帰電圧(リセット電圧) | 10%以上 |
最大許容電圧 | 110% (23℃) |
消費電力 | 約0.9W |
MY2N-D2が20個なので、負荷の定格消費電流は、
0.726A = 0.0363A × 20
となります。
これはあくまでも負荷側の定格なので、多少の変動を考慮し安全率1.25倍を乗じます。
0.9075A = 0.726A × 1.25倍
以上から0.9075Aよりも大きい最小の定格電流をもつサーキットプロテクタを選択します。
定格電流(In A) | 0.1 0.25 0.3 0.5 1 2 3 5 |
---|
三菱電機製のサーキットプロテクタ CP30-HUの定格電流から、0.9075Aより大きい最小設定は1Aです。
そのためサーキットプロテクタの定格電流は1Aとなります。
サーキットプロテクタには、付属装置といったオプション機能を追加できます。
開閉式小型端子カバー(TC-S) | 感電防止用のフィンガーガード |
---|---|
イナーシャルディレイ(ID) | トランスやランプ負荷などの突入電流で不要動作しないようにする (高速形、中速形、低速形のみ設定可) |
警報スイッチ(AL) | 主回路開閉機構に連動して作動し、プロテクタのトリップ状態を電気的に取り出せる |
補助スイッチ(AX) | 主回路開閉機構に連動して動作し、プロテクタのON・OFFを電気的に取り出せる |
電圧引きはずし(SHT) | 外部信号(電圧の印加)により負荷回路を瞬時に遮断できる |
今回はオプション機能が不要な回路なので、上記の付属装置は必要ありません。
以上の結果より、今回の回路に求められるサーキットプロテクタの型式は『CP30-HU 2P 定格1A』となります。
サーキットプロテクタの役割と使い所を理解して回路を安全に保護しよう
- サーキットプロテクタの役割は2次側負荷の保護
- サーキットプロテクタとブレーカーの違いは定格電流と引きはずし電流の大きさ
- サーキットプロテクタの性能は以下の点で示される
- 極数(P)
- 定格電流(A)
- 定格遮断容量(kA)
- 電流の種類(AC/DC)
- 過電流引きはずし方式
- 過電流引きはずし方式は以下の5種類
- 瞬時形
- 低速形
- 中速形
- 高速形
- 低速形(イナーシャルディレイ付)
- 中速形(イナーシャルディレイ付)
- 定格電流の決め方は負荷の合計消費電流に安全率乗じた値より大きい最小の設定を選択する
サーキットプロテクタは小容量の負荷を過電流から保護するための機器です。
ブレーカーとは異なり、過電流に対する遮断感度を選択できるため、過電流に弱い機器によく使われます。
ブレーカーとサーキットプロテクタの使い分けは、定格電流と過負荷耐性です。
負荷の過負荷耐性から、どちらが保護に適切かを導けるようになりましょう。
コメント