- リレーシーケンス制御とはハード回路によるシーケンス制御を指す
- 覚えるべき基本回路は『AND回路』『OR回路』『自己保持回路』の3つ
- リレーシーケンス制御はPLCと組み合わせて使用されることがほとんど
- リレーシーケンス制御は安全回路で使用されることが多い
- トラブルシューティングには多岐にわたる知識とスキルが求められる
この章では、シーケンス制御の基礎となるリレーシーケンス制御について学びます。
シーケンス制御を学ぶ上で、リレーシーケンス制御を理解しないと先に進むことはできません。
設計者としてリレーシーケンス制御の基礎と使い所は抑えておきましょう。
リレーシーケンス制御とはリレーなどの物理接点を用いたシーケンス制御のこと
リレーシーケンス制御とは、リレーやスイッチなど物理的な接点で構成されるシーケンス制御のことです。
上記のサンプル回路は、押しボタンPB1を押すとモーターが運転し、PB2を押すと停止する構成になっています。
運転条件
- ブレーカーELBがONしていること
- サーマルリレーOLがOFF(トリップ)していないこと
運転順序
- 押しボタンPB1を押すと、リレーRYがONする
- 電磁開閉器MSのコイルがONし、モーターMが始動する
- 押しボタンPB2を押すと、リレーRYがOFFし、モーターMが停止する
回路が複雑になるほど、リレーシーケンス制御回路とPLCを組み合わせて設計されることがほとんどです。
リレーシーケンス制御で使用される回路記号一覧
以下の表は、リレーシーケンス制御回路で頻出する回路記号です。
サンプル回路をもとに解説していくため、下記の回路記号が意味する内容は最低限覚えましょう。
名称 | 回路記号 |
---|---|
リレーコイル | |
リレーa接点 | |
リレーb接点 | |
タイマーリレーコイル | |
オンディレイタイマーリレーa接点 | |
オンディレイタイマーリレーb接点 | |
押しボタンa接点 | |
押しボタンb接点 | |
非常停止ボタンb接点 | |
リミットスイッチa接点 | |
リミットスイッチb接点 | |
表示灯ランプ (**部は色を示す) | |
ソレノイドバルブ | |
フレームアース | |
グラウンドアース | |
サーキットプロテクタ (**部は定格遮断容量を示す) | |
漏電遮断器 (**部は左から順に、定格遮断容量、アンペアフレーム、定格感度を示す) | |
ブレーカー (**部は左から順に、定格遮断容量、アンペアフレームを示す) | |
電磁接触器 | |
サーマルリレー (**部は整定電流を示す) | |
モーター(電動機) |
リレーシーケンス制御は『AND回路』『OR回路』『自己保持回路』の3つが基本回路
リレーシーケンス制御の基本回路は、
- AND回路
- OR回路
- 自己保持回路
の3つです。
シーケンス制御というのはこの3つの組み合わせで構成されています。
どんな複雑な回路でも、この3つを理解していれば、誰でも読み解くことが可能です。
AND回路
AND回路とは、すべての条件が満たされたとき出力する回路のことです。
リレーRY | a接点RYA | a接点RYB | a接点RYC |
---|---|---|---|
OFF | OFF | OFF | OFF |
OFF | ON | OFF | OFF |
OFF | OFF | ON | OFF |
OFF | ON | ON | OFF |
OFF | OFF | OFF | ON |
OFF | ON | OFF | ON |
OFF | OFF | ON | ON |
ON | ON | ON | ON |
サンプル回路の場合、リレーのa接点『RYA』『RYB』『RYC』の3つが同時にオンする場合のみ、リレーRYのコイルもオンします。
『RYAがオン』かつ『RYBがオン』かつ『RYCがオン』のとき『リレーRYがオン』する。
と言い換えれば、AND回路は理解しやすいと思います。
OR回路
OR回路とは、いずれか1つの条件が満たされたとき出力する回路です。
リレーRY | a接点RYA | a接点RYB | a接点RYC |
---|---|---|---|
OFF | OFF | OFF | OFF |
ON | ON | OFF | OFF |
ON | OFF | ON | OFF |
ON | ON | ON | OFF |
ON | OFF | OFF | ON |
ON | ON | OFF | ON |
ON | OFF | ON | ON |
ON | ON | ON | ON |
サンプル回路の場合、リレーのa接点『RYA』『RYB』『RYC』のいずれか1つがオンすると、リレーRYのコイルもオンします。
『RYAがオン』または『RYBがオン』または『RYCがオン』のとき『リレーRYがオン』する。
と言い換えれば、OR回路は理解しやすいと思います。
自己保持回路
シーケンス制御で必ず覚えなければならない基本回路のひとつが『自己保持回路』です。
自分のオン状態を自分自身で保持するという意味で、状態保持のために利用されます。
どんな回路なのか、どのように動作するのかを知るため、サンプル回路を見てみましょう。
サンプル回路の流れは下記のとおりです。
- ボタンPB1を押すと、リレーRYのコイルがオン
- リレーRYのコイルは、ボタンPB1とa接点RYによりオン
- ボタンPB1をオフにしても、a接点RYによりリレーRYのコイルはオンのまま
- ボタンPB2を押すと、自己保持がリセットされ、リレーRYはオフになる
ちょっと動作が複雑かもしれませんが、シーケンス制御において頻出する回路なので、絶対に理解をしてください。
リレーシーケンス制御のメリット・デメリット
便利なPLCがあるにも関わらず、未だにリレーシーケンス制御は使われています。
リレーシーケンス制御のメリットは次の3つです。
- 小規模な回路なら低コストで制作できる
- PLCでは扱えない高電圧、大電流を制御できる
- 物理的に回路を遮断できるため安全性が高い
対して、デメリットは次の2つです。
- 規模が大きくなると冗長な回路になりやすい
- 故障時のトラブルシューティングが難しい
メリット①小規模な回路ならリレーシーケンス制御のほうがコストが低い
小規模な回路であれば、PLCを使うよりもリレーシーケンス制御で完結すると安くすみます。
サンプルで使用した上記の回路を、三菱製のPLCだけで実現しようとすれば、
- 電源ユニット
- 基本ベースユニット
- CPUユニット
- DC入力ユニット
- 接点出力ユニット
が必要となり、15万円ほどのお金が必要です。
対してリレーシーケンス制御で構成するなら、数千円で済むので圧倒的に安いですよね。
シーケンス制御設計では、何にでもPLCを使うのではなく、コストとの兼ね合いを考えて手段を選ぶ必要があります。
メリット②PLCが扱えない高電圧、大電流を制御できる
リレーシーケンス制御の強みとして、複数の電圧や高電圧、大電流を制御できる点が挙げられます。
サンプルの三相AC200V回路は、PLCの出力で扱える電圧および電流ではありません。
接点容量の大きい電磁接触器(MS)を用いることで、高電圧、大電流を扱えます。
電磁接触器(MS)は低圧・少電流で操作できるため、PLCの出力で制御することが可能です。
PLCの得意な部分とリレーシーケンスの得意な部分を組み合わせることで、様々な機器を自由に制御できるようになります。
メリット③回路を物理的に遮断できるため安全性が高い
リレーシーケンス制御は、物理的に回路を遮断できるため、安全を司る回路でよく利用されます。
サンプルの回路に、非常停止ボタンEMG-Sと非常停止入力を監視するリレーRYEを追加しました。
リレーRYEの接点は、リレーRYと電磁開閉器MSの電源遮断用に使用します。
万が一、リレーRYが故障して導通常時ONの状態になっても、非常停止ボタンを押せば運転を停止できるからです。
PLCのプログラムで同じような回路を組んでも、電磁開閉器MS用の出力接点1つ故障するだけで運転を止められなくなります。
このように、安全を優先する回路はリレーシーケンス制御で構成するのが一般的です。
デメリット①規模が大きくなると冗長な回路になりやすい
リレーシーケンス制御のデメリットは、規模が大きいほど回路が冗長になりやすい点です。
リレーRY1、RY2、RY3の制御のために、わざわざリレーRYAとRYBを用意しているところは無駄に感じますよね。
物理的なリレーは接点数に上限があるため、上限を超えて接点を使いたい場合は、リレーを並列に追加するしかありません。
リレーを追加した分だけ、回路は冗長になるし、コストもかさみます。
対してPLCのプログラムは簡単です。接点を無限に増やせるため、以下のような極端な回路も作れます。
回路の規模が大きくなるほど、接点の使い回し頻度が増えるため、PLCを使うほうがメリットが大きくなります。
デメリット②故障時のトラブルシューティングが難しい
リレーシーケンス制御は、故障時のトラブルシューティングにいくつものスキルが必要です。
- 電気に関する基礎知識
- リレーシーケンス制御の基礎知識
- 制御盤配線の基礎知識
- テスター等、測定機器の基礎知識
といった、複数の知識を組み合わせて不具合箇所を調査します。
リレーの状態を一つひとつ確認しながら図面と照らし合わせていくため、時間もかかることがほとんどです。
そういった意味で、リレーシーケンス制御はメンテナンス性が低いと言われています。
PLCの場合、
- 動作状況をパソコンの画面上で逐一チェックできる
- 不具合調査用の回路を簡単に追加できる
- 検証やテストも簡単におこなえる
ため、メンテナンス性の高さが特徴です。
小規模な回路ならまだしも、規模が大きくなるほど、メンテナンスの面でPLCに軍配が上がります。
リレーシーケンス制御はPLCシーケンス制御を学ぶための基礎
- リレーシーケンス制御とはハード回路によるシーケンス制御を指す
- 覚えるべき基本回路は『AND回路』『OR回路』『自己保持回路』の3つ
- リレーシーケンス制御はPLCと組み合わせて使用されることがほとんど
- リレーシーケンス制御は安全回路で使用されることが多い
- トラブルシューティングには多岐にわたる知識とスキルが求められる
シーケンス制御には、PLC(プログラマブルロジックコントローラ)を使った、PLCシーケンス制御もあります。
シーケンス制御といえばPLCのプログラミングから勉強しないといけない、と思っている人も多いようですが間違いです。
PLCはもともとリレーシーケンス制御をソフトウェア上で実現するために開発されたもの。
リレーシーケンス制御の知識無くして、PLCシーケンス制御の設計はできません。
シーケンス制御を始めるなら、まずはリレーシーケンス制御から学習を始めましょう。
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