- 電線の許容電流は、電線の種類、製造メーカーごとに違う
- 電線の許容電流を決めるのは『太さ』『周囲温度』『束ねる本数』の3条件
- 電線を選定する際は安全率125%を乗じる
- 回路保護にブレーカーを使う際は、ブレーカーのAT(アンペアトリップ)を基準に電線を選定する
- 電線の許容電流を超えた電流を流すと、電線の被覆が溶けたり、火が出るため危険
この章では、電線の選定方法を学びます。
シーケンス制御でハード設計を進めるうえで、電線の選定スキルは必要です。
安全に大きく関わる部分なので、選定方法はしっかりと理解してください。
電線の許容電流とは安全に電線を使用できる電流の上限値
電線の許容電流とは、電線が安全に流せる電流の限界値です。
たとえば、許容電流が30Aの電線は、30A以下の環境で使用できます。
許容電流を超えた電流を流すと、電線の温度が上昇し、電線の被覆が溶けたり出火する場合もあるので危険です。
電線の許容電流は、次の条件で変化することを覚えておきましょう。
- 電線が太いほど許容電流は大きくなる
- 周囲の環境温度が高いほど許容電流は小さくなる
- 電線を束ねる本数が多くなるほど許容電流は小さくなる
電線が太いほど許容電流は大きくなる
電線は芯線が太くなるほど、許容電流が大きくなるのが特徴です。
芯線の太さは断面積sq(スケア)と呼ばれ、sqに許容電流も比例します。
電線の太さと許容電流の関係を理解するために、まずはKIV・IV電線の許容電流を見てみましょう。
電線の断面積[sq] | 許容電流[A] |
---|---|
1.25sq | 19A |
2sq | 27A |
3.5sq | 37A |
5.5sq | 49A |
8sq | 61A |
14sq | 88A |
22sq | 115A |
38sq | 162A |
60sq | 217A |
100sq | 298A |
150sq | 395A |
200sq | 469A |
電線の断面積が大きくなるほど、許容電流も大きくなっていることがわかりますね。
周囲の環境温度が高いほど許容電流は小さくなる
電線の許容電流は、周囲の環境温度に影響を受けます。
JISで定められている電線の許容電流は、周囲温度30℃を基準としており、
- 周囲温度が30℃より大きければ、許容電流は小さくなる
- 周囲温度が30℃未満なら、許容電流は大きくなる
という法則が成立します。
KIV・IV電線のデータシートから、周囲温度を上げた場合の許容電流を見てみましょう。
電線の断面積[sq] | 周囲温度30℃時 許容電流[A] | 周囲温度40℃時 許容電流[A] |
---|---|---|
1.25sq | 19A | 18A |
2sq | 27A | 22A |
3.5sq | 37A | 30A |
5.5sq | 49A | 40A |
8sq | 61A | 50A |
14sq | 88A | 72A |
22sq | 115A | 94A |
38sq | 162A | 132A |
60sq | 217A | 177A |
100sq | 298A | 244A |
150sq | 395A | 323A |
200sq | 469A | 384A |
周囲温度40℃での電流減少係数は0.82倍です。
その他の周囲温度ごとの電流減少係数を下記に示します。
周囲温度[℃] | 電流減少係数[%] |
---|---|
0℃ | 141% |
5℃ | 135% |
10℃ | 129% |
15℃ | 122% |
20℃ | 115% |
25℃ | 108% |
30℃ | 100% |
35℃ | 91% |
40℃ | 82% |
45℃ | 71% |
50℃ | 58% |
55℃ | 41% |
60℃ | 0% |
電線の種類によって電流減少係数は異なるため、計算する際は電線のデータシートを確認する癖をつけましょう。
電線を多く束ねるほど許容電流は小さくなる
電線は束ねる本数が多いほど温度が上昇しやすくなるため、許容電流は小さくなります。
内線規程1 340節-1の『電線管に収める場合の電流減少係数』を見てみましょう。
同一管内の電線数 | 電流減少係数[%] |
---|---|
1本 | 100% |
2~3本 | 70% |
4本 | 63% |
5~6本 | 56% |
7~15本 | 49% |
16~40本 | 43% |
41~60本 | 39% |
61本以上 | 34% |
電線管に入れた場合と、単純に束ねた場合では、厳密には電流減少係数が異なります。
ほぼ誤差の範囲なので、束ねる場合でも管内に入れる場合の減少係数を適用しても大丈夫です。
実際に三相交流モーターを使って電線の許容電流を計算してみる
ここでは、下記の条件のもと電線の許容電流を計算していきます。
- 電線の接続先は三相交流モーターで定格電流は35A
- U、V、Wの3本を電線管に入れて敷設
- 電線の種類はKIV(電気機器用ビニル絶縁電線)
- 電線を敷設する周囲環境温度は40℃
答えは14sqの電線です。計算式をまとめたものを以下に示します。
必要な許容電流[A] = 電流[A] ÷ ( 周囲温度の減少係数[%] × 電線数の減少係数[%] ) × 1.25
76.22[A] = 35 ÷ ( 0.82 × 0.70 ) × 1.25
電線に必要な許容電流は76.22Aなので14sqが適切
その計算結果に至るまでの手順を一つひとつ見ていきましょう。
まずは最低限必要な許容電流を求める
最初に敷設環境による電流減少係数を考慮した、最低限必要な許容電流を求めます。
必要な許容電流[A] = 電流[A] ÷ ( 周囲温度の減少係数[%] × 電線数の減少係数[%] )
60.98[A] = 35 ÷ ( 0.82 × 0.70 )
最低限必要な許容電流は60.98A
計算結果より、最低限必要な許容電流は60.98A以上であることがわかりました。
必要な許容電流に安全率125%を乗じる
最低限必要な許容電流52.26Aに対して、安全率125%を乗じます。
実電流に対して許容電流に余裕がない電線を選ぶと、過電流となったとき電線が焼損する可能性があるからです。
そのため選定する電線は許容電流に余力をもたせる必要があります。
余力は最低限必要な許容電流に125%を乗じた値をつかうことがほとんどです。
余裕を持った許容電流[A] = 必要な許容電流[A] × 安全率125%
76.23[A] = 60.98[A] × 1.25
安全な電線に必要な許容電流は76.23A
計算結果より、安全な電線を選定するのに必要な許容電流は76.23A以上であることがわかりました。
安全な電線を選定するための許容電流から電線の太さを選定する
安全な電線を選定するために必要な許容電流は76.23Aなので、これを越える最小の電線を選定すればOKです。
電線の断面積[sq] | 許容電流[A] |
---|---|
1.25sq | 19A |
2sq | 27A |
3.5sq | 37A |
5.5sq | 49A |
8sq | 61A |
14sq | 88A |
22sq | 115A |
38sq | 162A |
60sq | 217A |
100sq | 298A |
150sq | 395A |
200sq | 469A |
許容電流一覧表から、今回の条件における電線の適切な太さは14sqであることがわかりました。
14sqより太い電線を選定した場合の問題は次のとおりです。
- 電線が太くなるほど重く曲げにくくなるので、取り回しが難しくなる
- 電線が太くなるほど電線の単価が高くなる
- 機器によっては通線できないことがある
ハード設計をおこなう際は、上記の点に注意して進めましょう。
ブレーカー(遮断器)がある場合は、AT(アンペアトリップ)を基準に電線の太さを選定する
先程の条件にブレーカー(遮断器)を追加した場合、電線の太さはどうなるでしょうか。
50AT(アンペアトリップ)ブレーカーを追加した場合の回路で計算してみます。
- 電線の接続先は三相交流モーターで定格電流は30A
- U、V、Wの3本を電線管に入れて敷設
- 電線の種類はKIV(電気機器用ビニル絶縁電線)
- 電線を敷設する周囲環境温度は40℃
- 回路保護は50ATのブレーカーを設置 ← 追加条件
計算式は以下のとおりです。
必要な許容電流[A] = ブレーカーの定格電流[AT] ÷ ( 周囲温度の減少係数[%] × 電線数の減少係数[%] ) × 1.25
108.89[A] = 50 ÷ ( 0.82 × 0.70 ) × 1.25
安全に電流を流せる電線に必要な許容電流は108.89A以上
次に、108.89A以上の許容電流を持つ適切な電線の太さを一覧表から選びましょう。
電線の断面積[sq] | 許容電流[A] |
---|---|
1.25sq | 19A |
2sq | 27A |
3.5sq | 37A |
5.5sq | 49A |
8sq | 61A |
14sq | 88A |
22sq | 115A |
38sq | 162A |
60sq | 217A |
100sq | 298A |
150sq | 395A |
200sq | 469A |
モーターの定格電流は同じ35Aですが、回路に50ATのブレーカーを追加すると電線の太さは14sq→22sqに変わりました。
ブレーカーを基準に電線を選定する理由は、電線が焼損するリスクを下げるため
ブレーカーを基準に電線を選定する理由は、電線が焼損するリスクを下げるためです。
これはブレーカーの動作特性が関係しています。
引用:三菱ノーヒューズ遮断器・漏電遮断器・低扱開閉器カタログ
ブレーカーがトリップする条件には、次の2つがあります。
- 瞬時引きはずし
- 時延引きはずし
瞬時引き外しは、短絡などで瞬間的に大電流が流れた際、即時遮断する条件です。
次に瞬時引き外しですが、定格電流を超えてもすぐには遮断しません。
特性グラフのとおり、定格電流に対する電流の割合で遮断する時間が決まります。
問題は電流が電線の許容電流を超えた場合、時延ひきはずしによる遅延中に電線が焼損する可能性があるということです。
たとえば100Aの過電流が流れたとき、上記の性能特性だとトリップまで約5秒かかります。
許容電流88Aの14sq電線を選定していた場合、許容電流超えた電流が長時間流れることになり、電線が焼損する可能性が高いです。
そのため、回路保護にブレーカーを使用する場合、過電流が流れても電線が焼損しないようブレーカー基準で選定してください。
選定を間違えると大事故を引き起こすため、電線は慎重に選定する
- 電線の許容電流は、電線の種類、製造メーカーごとに違う
- 電線の許容電流を決めるのは『太さ』『周囲温度』『束ねる本数』の3条件
- 電線を選定する際は安全率125%を乗じる
- 回路保護にブレーカーを使う際は、ブレーカーのAT(アンペアトリップ)を基準に電線を選定する
- 電線の許容電流を超えた電流を流すと、電線の被覆が溶けたり、火が出るため危険
電線の選定スキルは、シーケンス制御のハード設計において必須です。
安全に大きく関わる部分なので、雰囲気や勘で適当に選定するのは絶対にやめてください。
計算で適切な電線の太さを導き出せれば、コストと安全性を両立した設計が可能です。
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