- スイッチング電源(AC→DC)とは交流電源を直流電源に変換する機器
- ハード回路設計に必要なスイッチング電源の性能は以下のとおり
- 入力電圧(AC)
- 入力周波数(Hz)
- 突入電流(A typ.)
- 突入電流時間(msec)
- 出力電圧(DC)
- 定格容量(W)
- 定格出力電流(A)
- 電圧可変範囲(%)
- スイッチング電源の容量は2次側の電圧と負荷の消費電流をもとに計算する
- スイッチング電源の容量が不足すると電圧低下や発熱による故障を引き起こす
- スイッチング電源保護用のブレーカーは以下の手順で選定する
- スイッチング電源の消費電流に安全率1.25倍を乗じる
- 計算した定格電流より大きい最小の標準定格電流を選択する
- 選定したブレーカーの型式の動作特性曲線から突入電流でトリップしないことを確認する
この章では、スイッチング電源(AC→DC)の役割と選定方法について学びます。
スイッチング電源は入力電源を直流電源に変換して出力する機器です。
シーケンス制御のハード回路では、リレーやPLC、センサーなどの制御機器の電源用に使用されます。
トランスのように2次側負荷に応じて容量選定をしないといけません。
ここでは設計に必要な情報の見かたと、容量、1次側保護の選定について解説していきます。
スイッチング電源(AC-DC)とは交流電源を直流電源に変換する装置
スイッチング電源とは、1次側に入力した交流電圧を直流電圧に変換し2次側から出力する装置です。
シーケンス制御では、リレーやセンサー、PLCの入出力など制御回路用の電源に利用されます。
ハード設計の際に必要となる、スイッチング電源の性能情報は以下のとおりです。
- 入力条件
- 入力電圧(AC)
- 入力周波数(Hz)
- 突入電流(A typ.)
- 出力条件
- 出力電圧(DC)
- 定格容量(W)
- 定格出力電流(A)
- 電圧可変範囲(%)
入力電圧(AC)
入力電圧は、スイッチング電源の1次側に入力する電圧を指します。
AC-DC電源の場合、1次側に入力する電源は単相交流です。
接続端子にはL(ライン)とN(ニュートラル)があり、以下のとおりに接続してください。
- L(ライン)側は非接地側を接続
- N(ニュートラル)側は接地側を接続
1次側保護はライン側のみで問題ありません。
ただし入力電源のライン、ニュートラル側がわからない場合、1次側保護に2極のブレーカーを使用してください。
入力周波数(Hz)
入力周波数は、スイッチング電源の1次側に入力する電源の周波数です。
スイッチング電源のほとんどが50Hz/60Hz共用品ですが、専用品もあるため必ずチェックしてください。
突入電流(A typ.)
突入電流は、スイッチング電源に電気を流した瞬間に発生する巨大な電流のことです。
1次側保護ブレーカーを選定する際、突入電流の大きさと時間を考慮します。
出力電圧(V)
出力電圧は、スイッチング電源の2次側に出力される電圧のことです。
AC-DC電源の場合、出力される電圧は直流です。
標準で3.3V、5V、9V、12V、15V、24V、36V、48Vあたりが用意されています。
定格出力電流(A)
定格出力電流は、スイッチング電源が連続して供給可能な最大出力電流のことです。
出力電力が定格容量以下であっても、定格出力電流を超えてはいけません。
とくに標準電圧より低い電圧で使用する場合、出力電流の上限に引っかからないよう注意を払います。
定格容量(W)
定格容量とは、スイッチング電源が出力できる電力の最大値です。
出力電力が定格容量を超えないよう、定格容量を選定します。
スイッチング電源の選定手順
以下の回路におけるスイッチング電源(DCPS)の選定手順を説明します。
二次側負荷の条件は、以下のとおりです。
- 電源電圧:DC24V
- 合計消費電流:4.5A
スイッチング電源は、OMRONのS8VSシリーズから選定します。
では、以下の手順に従ってスイッチング電源の容量を選定していきましょう。
- 二次側負荷の消費電流と電圧から必要電力の概算を求める
- 概算電力に余裕率1.25倍を乗じた余裕電力を求める
- 余裕電力よりも大きい最小容量のスイッチング電源を選択する
まずは二次側負荷に必要な電力を求めます。
必要電力(W)は以下の式で計算可能です。
必要電力(W) = 電圧(V) × 消費電流(A)
108W = 24V × 4.5A
以上の結果より、二次側負荷の必要電力は約108Wであることがわかりました。
概算電力96Wを基準にスイッチング電源を選定してはいけません。
必要電力に対して容量がカツカツの負荷率100%付近で使用すると、以下の問題が発生します。
- 出力電圧が不安定となり負荷が誤動作を起こす
- スイッチング電源が発熱して故障する
これらの問題は、変換効率の良い負荷率70%~80%で使用することで対処できます。
そのため、必要電力に対して電源容量に1.25倍~1.4倍程度の余裕をもたせましょう。
余裕率は以下の方法で決定します。
- 1.25倍→負荷追加の計画なし(負荷率80%ほど)
- 1.4倍→負荷追加の計画あり(負荷率70%ほど)
今回は負荷追加の予定がないので、余裕率は1.25倍(負荷率70%想定)にします。
余裕容量(W) = 必要電力(W) × 余裕率
135W = 108W × 1.25倍
以上の結果より、スイッチング電源に求める電源容量は135W以上であることがわかりました。
実際にスイッチング電源を選定する際は、135W以上の容量をもつ製品を選択します。
ここではOMRONのS8VSシリーズの標準容量を見てみましょう。
型式 | 容量 |
---|---|
S8VS-01524 | 15W |
S8VS-03024 | 30W |
S8VS-06024 | 60W |
S8VS-09024 | 90W |
S8VS-12024 | 120W |
S8VS-18024 | 180W |
S8VS-24024 | 240W |
S8VS-48024 | 480W |
上記の型式一覧から、180WのS8VS-18024がベストであることがわかりますね。
引用元:オムロン スイッチング・パワーサプライ テクニカルデータ S8VS-18024<標準タイプ>
最近のスイッチング電源は高効率化が進んでいます。なのでそこまで効率を考える必要はなくてってきているようです。
スイッチング電源の1次側保護ブレーカーの選定
スイッチング電源の容量がわかったら、次は保護方法を考えます。
上記のMCB(配線用遮断器)における、アンペアフレーム(AF)とアンペアトリップ(AT)を決めます。
ブレーカー選定に必要なスイッチング電源S8VS-18024の性能は以下のとおりです。
容量 | 180W |
---|---|
AC100V時 1次側電流 | 2.9A以下 |
AC100V時 突入電流 | 17.5A |
突入電流時間 | 約5msec |
ブレーカーは、三菱電機製のNV-CS(経済品)シリーズから選定します。
- 1次側電流に安全率1.25倍を乗じた余裕電流を計算する
- 余裕電流からブレーカーのAF/ATを決め型式を決定する
- 動作特性曲線から突入電流が瞬時引きはずし領域に重複しないかを確認する
スイッチング電源にAC100Vを投入したときの電流値は2.9Aが最大です。
2.9Aに安全率1.25倍を乗じた値が、ブレーカーに求められる定格電流となります。
定格電流(A) = スイッチング電源最大消費電流(A) × 安全率
3.625A = 2.9A × 1.25
以上の結果より、ブレーカーに求められる定格電流は3.625A以上となりました。
ブレーカーに必要な定格電流は3.625A異常なので、これよりも大きい最小の定格電流設定を選択します。
三菱電機製の配線用遮断器NV-CSシリーズの標準定格電流の設定は以下のとおりです。
型式 | AF(フレームA) | AT(定格電流) |
---|---|---|
NF30-CS | 30 | 3A |
5A | ||
10A | ||
15A | ||
20A | ||
30A |
上記より、定格電流設定は5Aが適切であることがわかります。
結果、定格電流よりNF30-CS 5A(30AF/5AT)というブレーカーが選定できました。
スイッチング電源に1次側電源を投入した際、一瞬だけ大電流が流れる突入電流が発生します。
ブレーカーには、この突入電流でトリップしない性能が必要です。
S8VS-18024の突入電流は17.5Aで、発生時間は5ms。安全をみて倍の10msと仮定しましょう。
NF30-CSが17.5Aの電流に10ms以上トリップせずに耐えられる能力があるかを、動作特性曲線から確認します。
突入電流17.5Aに対して、ブレーカーは10sまで連続して耐えられることがわかります。
10msを大幅に超えているので、突入電流でトリップすることはないでしょう。
なので、スイッチング電源S8VS-18024に適切な1次側保護ブレーカーはNF30-CS 5A(30AF/5AT)となります。
容量不足は動作不良の原因となるので確実な選定方法を身に着けよう
- スイッチング電源(AC→DC)とは交流電源を直流電源に変換する機器
- ハード回路設計に必要なスイッチング電源の性能は以下のとおり
- 入力電圧(AC)
- 入力周波数(Hz)
- 突入電流(A typ.)
- 突入電流時間(msec)
- 出力電圧(DC)
- 定格容量(W)
- 定格出力電流(A)
- 電圧可変範囲(%)
- スイッチング電源の容量は2次側の電圧と負荷の消費電流をもとに計算する
- スイッチング電源の容量が不足すると電圧低下や発熱による故障を引き起こす
- スイッチング電源保護用のブレーカーは以下の手順で選定する
- スイッチング電源の消費電流に安全率1.25倍を乗じる
- 計算した定格電流より大きい最小の標準定格電流を選択する
- 選定したブレーカーの型式の動作特性曲線から突入電流でトリップしないことを確認する
スイッチング電源は簡単に直流電源を得られる反面、故障しやすい機器でもあります。
適切な容量を選定できれば長期間安定して稼働させられるので、設計段階での選定が重要です。
2次側負荷の消費電流をきちんと精査しないといけない大変さはありますが、選定自体は難しくありません。
スイッチング電源に関する情報は、下記の参考サイトからも学べるので、ぜひ一度目を通しておいてくださいね。
直流電源関係のサイト
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