レベル2-2で組み上げポンプをスイッチで操作する回路を追加しました。
AC100V電圧回路にスイッチを設置するのは、漏電による感電被害が大きくなります。
よってオペレーターが触れる操作系は、DC24V回路で設計するべきです。
ここでは操作系の回路を直流電源化していきましょう。
昭和・平成初期の設備では、まれにAC100Vで操作系を設計している場合もあります。ですが基本的にオペレーターが触れる場所にはDC24Vを使用してください。
なぜ操作回路はDC24Vにするべきなのか?
FA関係の操作回路では、主にDC24Vが使用されています。
ここではなぜ交流ではなく直流なのか、なぜ24Vなのかについて説明します。
直流より交流のほうが最大電圧が高くなり電撃被害が大きいため
直流は常時一定の電圧が出力されるため、DC100Vという表記なら最大電圧は100Vです。
対して交流は時間とともに電圧がプラスとマイナスを行き来します。
私達が目にするAC100Vという表記は実効値であり、最大値ではありません。
交流の最大値は『実効値÷√2』で求められるため、AC100Vなら最大値は141Vとなります。
よって同じ電圧なら、交流よりも直流のほうが感電時の電撃が弱くなるということです。
人体が著しく濡れている状態で常時触れていられる電圧が25Vだから
(社)日本電気協会では、人の状況に応じて許容しうる接触電圧を定めています。
最も条件の悪い、人体が濡れている状況でも触れていられる電圧が最大25Vです。
感電時の危険性を小さくするなら、感電リスクの高い場所に25V以下の電圧を設定するのが妥当といえます。
24Vに設定する理由は安全性と電流増大によるデメリットとのバランスを取った結果
感電による危険性を低減したいなら、単純に回路電圧を下げれば良い気がしますよね。
電圧を下げれば機器に流れる電流が大きくなります。
オームの法則により、直流電圧の場合、消費電力が同じなら電圧が低いほど電流が大きくなるからです。
機器に流れる電流が大きくなると、以下のデメリットが発生します。
- 発熱量(I^2×R×t)が増え冷却部が大きくなる
- パターン幅が広くなり回路基盤が大きくなる
機器を大きく作らないと、これらの問題を解決できません。
逆を言えば、電圧を上げれば電流が小さくなり小型化できるということです。
よって、FA関係の設備では安全と小型化の観点から制御回路にDC24Vを採用しています。
スイッチング電源を追加して操作回路をDC24V化する
ここでは、スイッチング電源を追加しリレーを通じて組み上げポンプの運転をおこなう回路を作成します。
登場する機器の紹介
- PB1:汲み上げポンプ運転スイッチ
- PB2:汲み上げポンプ停止スイッチ
- CP2:スイッチング電源保護用のサーキットプロテクタ
- RY1:汲み上げポンプ運転指令リレー
- DCSW:スイッチング電源(AC200V→DC24V変換)
PB1:スイッチ(a接点)
スイッチは押しボタンタイプで、押すと回路が導通するa接点を使用しています。
このスイッチを押すと、汲み上げポンプ運転指令のリレーがオンし、汲み上げポンプが運転します。
使用するスイッチは、オムロン製のA22NNタイプをです。
PB2:スイッチ(b接点)
スイッチは押しボタンタイプで、押すと回路が開くb接点を使用しています。
このスイッチを押すと、汲み上げポンプ運転指令のリレーをオフし、汲み上げポンプを停止させます。
使用するスイッチは、オムロン製のA22NNタイプをです。
DCSW:スイッチング電源(AC200V→DC24V変換)
スッチング電源とは、交流電圧を直流電圧に変換する機器です。
操作回路で使用するためのDC24Vを出力するために追加します。
今回使用するスイッチング電源は、オムロン製のS8VSシリーズです。
RY1:ミニパワーリレー
ミニパワーリレーとは、外部入力によりコイルをオン・オフし接点を開閉する機器です。
今回はDC24Vの操作回路でコイルをオン・オフし、AC100V回路の汲み上げポンプ用電磁開閉器を操作します。
使用するミニパワーリレーは、オムロン製のMY2N-D2 DC24Vです。
CP2:サーキットプロテクタ
サーキットプロテクタとは、過電流が発生した際に回路を遮断する機器です。
今回はスイッチング電源が過負荷により故障させないための保護として設置します。
使用するサーキットプロテクタは、富士電機製のCP30FMシリーズです。
AC100V回路の解説
ここではAC100V回路における、電源部と制御部について解説します。
電源回路
AC100Vの電源回路は、【レベル2-2】ダウントランスとスイッチで電磁接触器を操作すると等価です。
回路図を見やすくするため、トランスの2次側で分割しました。
分割後のAC100V回路は以下のステップで解説します。
制御回路
AC100Vの制御回路は、スイッチによる制御をリレー接点へ変更しました。
操作系の機器は安全性の高いDC24V回路に移動したからですね。
異電圧の回路を操作する際はリレーを用いるのが定石です。接点RY1はDC24V回路で操作します。
DC24V回路の解説
ここではDC24V回路における、電源部と制御部について解説します。
電源回路
スイッチング電源の選定
スイッチング電源を設置するにあたり、
- 入力電圧
- 出力電圧
- 電源容量
といった3つの情報が必要です。
入力電圧は『φ1 AC200V 60Hz』、出力電圧は『DC24V』なのは、今回の回路設計上すぐに分かりますよね。
一番の問題は電源容量をどうやって決めるかです。
電源容量(W)=2次側の総電流値(A)×2次側電圧(V)×1.25(安全率)
スイッチング電源の2次側にある負荷は、リレーのコイル1つだけ。
オムロン製のMY2N-D2 DC24Vのコイル定格電流は36.3mAなので、2次側の総電流値は0.036Aであることがわかります。
よってスイッチング電源に必要な最低電源容量は以下のとおりです。
1.08(W)=0.036(A)×24(V)×1.25(安全率)
以上の計算結果より、1W以上のスイッチング電源を選定すればOKであることがわかりました。
オムロンのS8VSシリーズで条件に適合するものを探してみましょう。
型式 | 容量 |
---|---|
S8VS-01524 | 15W |
S8VS-03024 | 30W |
S8VS-06024 | 60W |
S8VS-09024 | 90W |
S8VS-12024 | 120W |
S8VS-18024 | 180W |
S8VS-24024 | 240W |
S8VS-48024 | 480W |
よって、今回の回路において適切なスイッチング電源の型式は『S8VS-01524』となります。
スイッチング電源保護サーキットプロテクタの選定
スイッチング電源の型式を選定できたら、過負荷による保護回路を検討します。
保護機器はブレーカーもしくはサーキットプロテクタのいずれかです。
どちらを使用するかは、遮断容量しだいで決めます。
- 5A未満ならサーキットプロテクタ
- 5A以上なら配線用遮断器(ブレーカー)
オムロンのスイッチング電源『S8VS-01524』の1次側消費電流を確認してみましょう。
消費電流 | 0.25A以下、0.22A typ. |
---|---|
突入電流 | 35A以下、28A typ. |
消費電流の最大値が0.25Aなので、サーキットプロテクタで良さそうです。
サーキットプロテクタは富士電機のCP30FMシリーズから選定するとして、選定に必要な条件は以下のとおりです。
- 極数
- 遮断容量
- 特性
極数
極数は遮断する線の本数です。
今回の回路では交流電圧を扱うため、過負荷時にはR相、S相ともに遮断します。
特性
特性とは、定格遮断容量を超えた際にどのくらいの猶予を持って遮断をおこなうかを決める設定です。
スイッチング電源は突入電流が発生する機器なので、低速または遅延形のサーキットプロテクタを選定します。
遮断容量
スイッチング電源S8VS-01524の1次側消費電流は0.25Aでしたよね。
よって遮断容量は安全率1.25倍を乗じた場合、サーキットプロテクタに求められる定格電流は以下のとおりです。
0.3125(A)=0.25(A)×1.25(安全率)
CP30FMシリーズの定格電流を確認してみましょう。
定格電流 | 0.1、0.3、0.5、1、2、3、5、7、10、15、20、25、30 |
---|
よってサーキットプロテクタに設定する定格電流は0.5Aが良さそうです。
これらの結果より、サーキットプロテクタに求められる条件は『2極』『低速形』『定格0.5A』の3つ。
なのでサーキットプロテクタの詳細型式は『CP30FS-2P0P5』であることがわかりました。
制御回路
制御回路の仕様は以下のとおりです。
- PB1を押すとRY1がオン
- PB1を離しても自己保持によりRY1はオン継続
- PB2を押すと自己保持をリセットしRY1はオフ
- サーマルリレーが過負荷を検出した際はRY1のオンを禁止する
- PB1とPB2を同時押しした際は、停止を優先しRY1のオンを禁止する
要約すると『PB1を押すとポンプを運転し、PB2で停止させる回路』ということです。
シーケンス制御の基礎が詰まった回路なので、しっかりと動作の仕様を理解しておきましょう。
操作系統を直流電圧に変更する回路はこれで完成
今回の作業で、操作および制御系の回路を交流電圧から直流電圧に変更できました。
簡単そうな作業にみえて、検討することが多く基礎的な知識も求められます。
安全な回路を設計するうえで、直流回路への変換方法はしっかりと理解しておきましょう。
次は【レベル3】センサーの信号で汲み上げポンプを運転するへ
次はセンサーの信号を利用して汲み上げポンプを操作してみましょう。
現状の回路だと、給水元や汲み上げ先のタンクの容量に関係なく無限にポンプを運転できてしまいます。
実際の設備などでは、給水元のタンク残量を確認しないと空運転になってしまいます。
もしかすると汲み上げ先のタンクがオーバーフローするかもしれません。
こういった事態を防ぐためにセンサーを設置し、インターロックを設けます。
さらにセンサーを使って、ポンプの自動運転も可能です。
実践的な内容に足を踏み入れていくので、頑張ってついてきてくださいね。
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