配線用遮断器(ブレーカー)の役割と選定方法|シーケンス制御ハード設計基礎

この章のまとめ
  • 配線用遮断器(ブレーカー)は二次側の過電流や短絡から配線を保護するために設置する
  • ブレーカーの性能は以下の5点で表される
    • アンペアフレーム(AF)
    • アンペアトリップ(AT)
    • 極数(P)
    • 定格絶縁電圧(V)
    • 定格短絡遮断容量(kA)
  • ブレーカーの基本的な選定方法は下記の通り
    • 負荷の定格電流×安全率を定格遮断電流とする
    • 動作特性曲線を確認し始動電流が瞬時引きはずし領域以下であるかを確認する
    • 始動中の電流が時延引きはずし領域の最小以下となるか確認する
  • アンペアフレーム(AF)を大きくすると瞬時引きはずし、時延引きはずしの領域が緩慢になる

この章では、配線用遮断器(ブレーカー)の役割と選定方法について学びます。

ハード設計において必ず登場するブレーカーは、回路を保護する性質上、正しい選定方法を理解することが大切です。

ブレーカーは、過電流や短絡電流から電線や負荷の焼損を防ぎ、人と設備を守るのに役立ちます。

選定方法は少し難しいですが、丁寧に解説しているのでがんばって覚えましょう。

サーキットプロテクタについてはこちら

漏電遮断器についてはこちら

目次
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配線用遮断器(ブレーカー)とは二次側負荷の過電流から電線を保護する機器

配線用遮断器(ブレーカー)とは、過負荷や短絡による二次側の過電流から配線を保護するための機器です。

ノーヒューズブレーカーとも呼ばれ、ヒューズを使用していないため、スイッチひとつで復旧できる点が強み。

定格電流以上の過電流が流れて回路が遮断された状態を『トリップ』と呼び、ブレーカーが飛ぶとも言われます。

そんなブレーカーについて、設計者が知っておくべき各種仕様の意味は下記のとおりです。

設計者が抑えるべきブレーカーの仕様一覧
  • フレームサイズまたはアンペアフレーム(AF)
    • ブレーカー本体に常用で流せる電流の最大値
  • 定格電流またはアンペアトリップ(AT)
    • ブレーカーが遮断動作をおこなう電流値
  • 極数(P)
    • 電線を接続できる本数
  • 定格絶縁電圧(V)
    • ブレーカーが耐えられる最大電圧
  • 短絡遮断容量(kA)
    • 短絡事故発生時にブレーカーの遮断能力が確保できる最大電流

アンペアフレーム(AF)とはブレーカーに常用で流せる最大電流のこと

アンペアフレーム(AF)とは、ブレーカー本体の大きさ及び設定できる最大の定格電流を意味します。

125AFのブレーカーなら、最大125Aの定格電流まで設定可能です。

アンペアフレームを超える定格電流を設定する場合は、アンペアフレームも大きくしないといけません。

150Aの定格電流は設定したいなら、150AF以上のフレームサイズを選定する必要があります。

アンペアトリップ(AT)とはブレーカーが作動する定格電流のこと

アンペアトリップ(AT)とは、ブレーカーが回路遮断動作を開始する電流値のことです。

ブレーカーに流れる電流が定格電流値を越えると、動作特性に従ってトリップします。

たとえば50ATのブレーカーなら、50A超の電流を検知してトリップするといった具合です。

アンペアトリップの値は、アンペアフレーム(AF)を超えて設定できない点に注意してください。

必ず『アンペアフレーム(AF) ≧ アンペアトリップ(AT)』となるよう選定します。

極数(P)とは電線を接続できる本数のこと

極数とは電線を接続できる本数を指します。単位はP(Pole)です。

三菱電機製 配線用遮断器 NF30-FA 5A 2P品

三菱電機製 配線用遮断器 NF30-FA 30A 3P品

主に、2極品と3極品が販売されています。

定格絶縁電圧(V)とは印加できる最大電圧のこと

定格絶縁電圧とは、耐電圧試験により証明された安全にブレーカーを使用できる最大電圧です。

いかなる場合でも、定格絶縁電圧を超える電圧を印加してはいけません。

ブレーカーの故障や火災に繋がります。

定格短絡遮断容量(kA)とは短絡事故発生時にブレーカーが安全に遮断できる最大電流のこと

定格短絡遮断容量(kA)とは、短絡事故発生時にブレーカーが安全に回路を遮断できる最大電流のことです。

電流が定格短絡遮断容量を越えると、損傷を受けて故障したり回路を遮断できない場合があります。

定格短絡遮断電流に対して、流れた短絡電流の程度におけるブレーカーの変化は下記のとおりです。

ブレーカーに流れた短絡電流の程度ブレーカーの変化
定格遮断電流の0.5倍以下安全に再利用できる
定格遮断電流の1倍ブレーカに若干の破損が見られる
交換を推奨する
定格遮断電流の1.5倍ブレーカーは損傷する
交換必須
定格遮断電流の2倍以上ブレーカーは損傷し、アークが長時間発生する
場合によっては回路を遮断できない
参考元:短絡電流が流れたブレーカーはどうなるか教えてください Panasonic

配線用遮断器の動作特性とは

動作特性とは、定格遮断電流(AT)以上の過電流に対して回路を遮断する能力のことです。

各ブレーカーの遮断性能は、以下のような動作特性曲線によって表されます。

引用元:三菱電機製 低圧遮断器NF125-UVの動作特性曲線

横軸はブレーカーの定格電流に対して何%の電流が流れているかで、縦軸は遮断までにかかる時間です。

最小から最大までの時間以内にブレーカーは動作するよう設計されています。

過電流を検知してから少し待って遮断する電流の領域を『時延引きはずし』といい、過電流を検知したら即遮断する電流の領域を『瞬時引きはずし』といいます。

時延引きはずし

時延引きはずしとは、過電流が一定時間以上流れたときトリップする動作領域のことです。

トリップまで時間的余裕を持たせているのは、始動電流でトリップさせないため。

始動電流とは、電源を入れた直後に定格電流以上の第電流が流れる現象を指します。

始動電流について詳しく

始動電流により、ブレーカーの定格遮断電流(AT)を越えるたびにトリップしていたら使い物になりません。

そのため、短時間は過電流を許容することで始動電流でトリップさせない仕組みになっています。

どれくらいの過電流を許容するかは、動作特性曲線を見ればわかるので見てみましょう。

引用元:三菱電機製 低圧遮断器NF125-UVの動作特性曲線

たとえば、定格電流に対して700%の過電流が流れたとき、1秒~6秒以内にトリップすることがわかります。

定格電流の1000%なら、0.75秒~3秒くらいです。

このように定格電流に対する電流の大きさで、遮断までの猶予時間を変えることにより、

  • 過負荷による長時間の過電流はトリップさせる
  • 始動電流による短時間の過電流ではトリップさせない

といった工夫がなされています。

瞬時引きはずし

瞬時引きはずしとは、特定の電流以上が流れた瞬間に即トリップする動作領域のことです。

主に短絡からの保護を想定しており、短絡事故による被害拡大を防ぐため即回路を遮断するよう設定されています。

瞬時引きはずし領域について、三菱電機製の配線遮断器NF125-UVの動作特性曲線を参考に確認してみましょう。

引用元:三菱電機製 低圧遮断器NF125-UVの動作特性曲線

定格電流の1600%を越える、または600A±120Aの電流が流れると、ブレーカーは瞬時にトリップする特性になっています。

そのため、このブレーカーは始動電流が定格電流の約1600%、または600A±120Aを越える負荷に対しては使用できません。

この点を忘れてブレーカーを選定してしまうと、始動時にトリップしてしまい使い物にならないので注意してください。

実際の負荷を使ってブレーカーを選定してみる

ここでは実際にメーカーのカタログから抜粋した機器をもとに、ブレーカーを選定してみましょう。

今回の対象機器は以下の2点です。

  • 単相複巻変圧器(トランス)
  • 三相交流電動機

この2つの機器はハード回路設計でよく登場するので、覚えておいて損はないでしょう。

単相複巻変圧器(トランス)の場合

単相複巻変圧器の一次側にブレーカーを設置する場合、選定手順は下記のとおりです。

  • トランスの定格電流と励磁突入電流の突入倍率を確認する
  • 使用予定のブレーカーモデルを選定し動作特性(0.01秒)を調べる
  • 突入電流と瞬時引きはずし特性を比較する

単相複巻変圧器は下記の製品を使用します。

メーカー布目電機株式会社
型式NESB3000AE21-02
相数単相
1次側電圧200V/210V/220V ※今回は200Vを使用する
2次側電圧100V/100V
容量3kVA
突入倍率23倍
絶縁種別B種
引用元:布目電機 単相複巻変圧器 NESB3000AE21-02
STEP
トランスの定格電流と励磁突入電流の突入倍率を確認する

今回使用するトランスの励磁突入電流の突入倍率は『23倍』です。

1次側の定格電流は下記の式で計算できます。

単相変圧器の1次側電流計算式

1次側定格電流[A] = 容量[VA] ÷ 1次側電圧[V]

15A = 3000VA ÷ 200V

三相交流の場合は√3を乗じる

STEP
使用予定のブレーカーモデルを選定し動作特性(0.01秒)を調べる

トランスの1次側電流がわかったので、定格電流を除くブレーカーの型式を決めましょう。

定格電流15Aあたりでよく使われるのが、三菱電機製の配線遮断器NF30-FAです。

今回はNF30-FA 2Pをもとに、定格電流を選定していきます。

まずはNF30-FA 2Pの動作特性曲線から、0.01秒時点の遮断倍率を確認してみましょう。

0.01秒時点の遮断倍率を調べる理由は、トランスの励磁突入電流が0.01秒時点で最大値となるためです。

ブレーカーの0.01秒時点の遮断電流値 >トランスの励磁突入電流

であれば、励磁突入電流でトリップしないため、適用できるブレーカーであることがわかります。

遮断電流値が励磁突入電流より小さい場合、ブレーカーのフレームサイズを上げるか動作特性が異なるモデルに変更してください。

STEP
ブレーカーの定格電流を決める

ブレーカーの定格電流を決める際は、下記の2条件のうち値が大きい方を採用します。

  • トランスの励磁突入電流 ÷ ブレーカーの瞬時引きはずし特性の遮断倍率
  • 1次側の定格電流値 × 安全率1.1倍

実際に計算した結果は下記のとおりです。

  • (15[A]×23[倍]) ÷ 35[倍] = 9.9[A]
  • 15[A] × 1.1[倍] = 16.5[A]

今回は②のほうが大きいため、16.5Aを定格遮断電流の選定基準に採用します。

NF30-FA 2Pの定格電流ラインナップが5A、10A、15A、20A、30Aなので、16.5Aよりワンサイズ大きい20Aが適切です。

①~③の手順から、単相複巻変圧器NESB3000AE21-02の1次側ブレーカーは、三菱電機製『NF30-FA 2P 定格電流20A』が適切だといえます。

変圧器についてもっと詳しく

電動機の場合

三相交流電動機に対してブレーカーを設置する場合、選定手順は下記のとおりです。

  • 負荷の定格電流からブレーカーの遮断定格電流と型式を概算で決める
  • 突入電流がブレーカーの瞬時引きはずし電流の下限を超えないかチェック
  • 始動中の電流がブレーカーの動作特性の最小曲線を超えないかチェック

電動機は下記の製品を使用します。

定格出力22kW
定格電圧200V
定格周波数60Hz
極数6P
100%負荷時電流82.7A
始動電流508A
データ引用元:東芝プレミアムゴールドモートル
STEP
負荷の定格電流からブレーカーの遮断定格電流と型式を概算で決める

まずは電動機の定格電流から、ブレーカーの型式と遮断定格電流を概算で決めましょう。

今回は三菱電機のブレーカーでも価格の安い、経済品NF-Cクラスを採用します。

参考 経済品(Cシリーズ)と汎用品(Sシリーズ)の主な違い 三菱電機

電動機を保護するブレーカーの定格遮断電流値の求め方は下記のとおりです。

電動機を保護するブレーカーの定格遮断電流の計算式

ブレーカーに求められる定格遮断電流の最低値 = 電動機の定格電流[A] × 安全率1.25倍

103.375A = 82.7A × 1.25

ブレーカーの定格遮断電流には103.375Aが存在しないため、この値より大きい最小の遮断定格電流(AT)を選択します。

NF-Cクラスだと125ATが最小です。また、125ATに対応する最小のフレームサイズは125AFです。

なので仮の選定結果は『NF125-CV 3P 定格電流125A』となり、これをもとに動作特性曲線をチェックしていきます。

STEP
始動電流がブレーカーの瞬時引きはずし電流の下限を超えないかチェック

選定したブレーカーが、電動機の始動電流でトリップしないかを確認します。

そのためには、電動機の始動電流がブレーカーの瞬時引きはずし電流の下限以下でないといけません。

先程選定した『NF125-CV 3P 定格電流125A』の動作特性曲線を見てみましょう。

瞬時引きはずし電流の下限が、定格遮断電流125Aの950%なので約1,180Aほど。

今回使用する電動機の始動電流は『508A』なので、始動電流でブレーカーがトリップすることはありません。

そのため、仮に選定した『NF125-CV 3P 定格電流125A』は始動時にトリップしない点もクリアしています。

STEP
始動中の電流がブレーカーの動作特性の最小曲線を超えないかチェック

電動機を始動してから定格回転数に落ち着くまでのことを始動時間といいます。

始動時間中は定格電流よりも大きい電流が流れるため、時延引きはずしでトリップしないことを確認しないといけません。

この始動時間は、電動機が運転する負荷の仕様によって異なるため、一概に計算できるものではないです。

そのため、機械設計者などに負荷の仕様を相談し、概算で最小値を超えないことを確認します。

始動中にトリップしてしまう場合、ブレーカーのフレームサイズを1ランクアップさせます。

正しいブレーカーを選定して短絡と過電流から配線を守ろう

この章のまとめ
  • 配線用遮断器(ブレーカー)は二次側の過電流や短絡から配線を保護するために設置する
  • ブレーカーの性能は以下の5点で表される
    • アンペアフレーム(AF)
    • アンペアトリップ(AT)
    • 極数(P)
    • 定格絶縁電圧(V)
    • 定格短絡遮断容量(kA)
  • ブレーカーの基本的な選定方法は下記の通り
    • 負荷の定格電流×安全率を定格遮断電流とする
    • 動作特性曲線を確認し始動電流が瞬時引きはずし領域以下であるかを確認する
    • 始動中の電流が時延引きはずし領域の最小以下となるか確認する
  • アンペアフレーム(AF)を大きくすると瞬時引きはずし、時延引きはずしの領域が緩慢になる

ハード回路の設計において、ブレーカーの選定知識は必須です。

正しい選定ができないと、意図しないトリップを引き起こしたり、電線が焼損し火災につながります。

選定方法を理解し、安全に回路を保護できる設計を確実におこないましょう。

コメント

コメント一覧 (1件)

  • 小野と言います。
    初めてメールさせて頂きます。私は、社内で電気関係の教育を担当しています。
    今回、このようなサイトに有る内容の教育があり、とても参考になりました。
    なぜなら、理論的に根拠を裏付けして機器の選定をしていることに感銘を受けました。
    ありがとうございます。
    これからもこのサイトを参考にして精進していきたいと思います。
    勝手ながら、1つだけ、教えていただければ有り難いのですが、ブレーカーの特性図はどのようにすればあんなに、きれいに描くことができるのでしょうか。教えて頂ければ幸いです。

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