三菱iQ-RシリーズのCPUにはイーサネットポートが標準で搭載されています。
この内蔵イーサネットを使えば、他ベンダーの機器とModbusTCPで通信ができます。
ただし使用するCPUやユニットによって、クライアント/サーバーの割り当てに制限があります。
- 【クライアントのみ】
└ CPU内蔵のイーサネットポート - 【クライアント/サーバ】
├ ENシリーズCPUと一体のイーサネットユニット(内蔵タイプRJ71EN71)
└増設用のイーサネットユニット(RJ71EN71)
iQ-R CPUをModbusTCP通信のクライアントとして使うとき、GX-Works3のユニット設定から『シンプルCPU通信設定』を利用します。
ラダー上で通信プロトコル回路を書かなくていいので、簡単にModbusTCP接続を確立できる点が特徴です。
シンプルCPU通信設定を使った例に、【FANUC】Modbus/TCPサーバ機能を追加してModbusで通信するがあります。
これは三菱iQ-R CPUとFANUCをModbusTCP通信で接続したときの、FANUC側の設定を解説しました。
ここでは三菱iQ-R CPUをクライアント、FANUCをサーバーとしたModbusTCP接続のやり方について、シンプルCPU通信設定から実現する手順を解説します。
シンプルCPU通信設定とは
難しい通信プロトコルの回路を書かなくても、三菱電機のPLCや他ベンダーのPLCとも簡単に接続できる便利な機能です。
送受信は指定した相手と1:1でおこない、PLC同士でデバイスデータを送受信したいときに使います。
交信相手の機器種別一覧
シンプルCPU通信設定が対応する交信相手は次の通りです。
機器種別 | 交信相手 | 通信方法 |
---|---|---|
三菱iQ-R(内蔵Ethernet) | RnCPU, RnENCPU, RnPCPU, RnSFCPU, RnPSFCPU | MELSOFT接続(UDP) |
三菱Q(内蔵Ethernet) | Ethernetポート内蔵QCPU | MELSOFT接続(UDP) |
三菱L(内蔵Ethernet) | Ethernetポート内蔵LCPU | MELSOFT接続(UDP) |
三菱iQ-F(内蔵Ethernet) | FX5U CPUユニット, FX5UC CPUユニット | MELSOFT接続(TCP) |
三菱iQ-L(内蔵Ethernet) | LnHCPU | MELSOFT接続(UDP) |
三菱iQ-R(Ethernetユニット) | RnENCPU,RJ71EN71 | MELSOFT接続(UDP) |
三菱Q(Ethernetユニット) | QJ71E71-100 | MELSOFT接続(UDP) |
三菱L(Ethernetユニット) | LJ71E71-100 | MELSOFT接続(UDP) |
三菱A/AnS(Ethernetユニット) | AJ71E71N3-T, AJ71QE71N3-T, A1SJ71E71N3-T, A1SJ71QE71N3-T | MCプロトコル(A互換1Eフレーム) |
三菱FX3(Ethernetブロック・アダプタ) | FX3U-ENET-ADP, FX3U-ENET-L | MCプロトコル(A互換1Eフレーム) |
SLMP対応機器(QnA互換3Eフレーム) | • SLMP対応機器(シリアル番号なし) • MCプロトコル3Eフレーム対応機器 | SLMP(MCプロトコル QnA互換3Eフレーム) • Read(0401H) • Write(1401H) |
オムロン(CS/CJシリーズ) | SYSMAC CS/CJシリーズ対応機器 | FINS |
キーエンス(KVシリーズ) | KVシリーズ対応機器 | SLMP(MCプロトコル QnA互換3Eフレーム) |
パナソニック(FP2SHシリーズ) | FP2シリーズ対応機器 | MEWTOCOL |
パナソニック(FP7シリーズ) | FP7シリーズ対応機器 | MEWTOCOL7 |
安川MP3000シリーズ | MP3000シリーズ対応機器 | 拡張MEMOBUS |
安川MP2000シリーズ | MP2000シリーズ対応機器 | 拡張MEMOBUS |
横河FA-M3シリーズ | FA-M3シリーズ対応機器 | パソコンリンク |
MODBUS/TCP対応機器 | MODBUS/TCPスレーブ機器 | MODBUS/TCP |
SIEMENS S7シリーズ | S7シリーズ対応機器 | S7 Communication |
富士電機MICREX-SXシリーズ | • MICREX-SX(CPUモジュール)シリーズ対応機器 • MICREX-SX(Ethernetモジュール)シリーズ対応機器 | ローダコマンド |
ジェイテクトTOYOPUCシリーズ | • TOYOPUC PC10(CPUモジュール)シリーズ対応機器 • TOYOPUC Plus(CPUモジュール)シリーズ対応機器 • TOYOPUC Plus(Ethernetモジュール)シリーズ対応機器 | コンピュータリンク |
FANUCのPMCが交信相手の一覧になかったため、Modbus/TCPを使って接続することにしました。
一覧にない機器でも、Modbus/TCPのスレーブ機能に対応していれば、シンプルCPU通信機能を使って接続できます。
シンプルCPU通信機能で設定できるのはクライアント側のみ
機器種別一覧では、交信相手に『Modbus/TCPスレーブ』と記述されてることにお気づきでしょうか。
シンプルCPU通信機能を使ってModbus/TCP通信を確立する際は、必ずiQ-R CPUがクライアントに設定されます。
iQ-R CPUをサーバ(スレーブ)にしたいときは、相手機器接続構成設定を使います。
さらにEthernet構成RnENCPUの一体型Ethernetポートへ接続するか、別途Ethernetユニットが必要です。
今回はクライアント側として利用するので、サーバ設定に関しては割愛します。
Modbus/TCP接続における構成例
三菱iQ-R CPUとFANUC 0i-TCを接続する方法を例にとって構成を説明します。
ネットワーク回路構成

ModbusTCPのクライアントは三菱電機製 iQ-R(R120ENCPU)、サーバをFANUC 0i-TCとします。
両者はスイッチングハブを経由して、イーサネットケーブル(ストレート)で接続します。
このとき三菱側は一体型Ethernetユニットのポート1、FANUC側は内蔵Ethernetポートにイーサネットケーブルの両端をつなぎます。
各機器のIPアドレスは次の通りです。
- 三菱R120ENCPU → 192.168.3.40
- FANUC 0i-TC → 192.168.3.41
三菱iQ-Rユニット構成

R120ENCPUといった、型式にENがつくモデルはEthernetユニット一体型CPUです。
スロット0のユニット部品は、『CPU拡張』リストからRJ71EN71を選びます。
型式後のカッコ書き内は、各ネットワークポートの仕様です。
ModbusTCP接続では、Ethernetインタフェースに対応した(E+IEC)または(E+IEF)を選択します。
ユニット全体の構成図は次の通りです。
ベースユニット | R33B |
電源ユニット | R61P |
CPU | R120ENCPU |
Ethernetユニット | RJ71EN71(E+IEC) |
Modbusデータ領域と取合内容

三菱PLCとFANUC PMC間において、やり取りされるデータの流れは次の通りです。
【三菱PLC –≫ FANUC PMC】
- データレジスタD9000.0~D9079.Fの内容を、保持レジスタ0~79ワード目に書込み
- 保持レジスタ0~79ワード目の内容を、PMCアドレスE0000.0~E0159.7に書込み
【三菱PLC ≪– FANUC PMC】
- PMCアドレスE0500.0~E0559.7の内容を、保持レジスタ80~159ワード目に書込み
- 保持レジスタ80~159ワード目 の内容を、データレジスタD9100.0~D9179.Fに書込み
ModbusTCP通信を定義することで、工程①でModbusデータ領域へ書込み、工程④でModbusデータ領域から読出せます。
シンプルCPU通信設定は、この工程を簡単に実現する機能だと言えます。
※FANUC側が保持レジスタ領域の読出/書出にしか対応していないため、使用する領域は保持レジスタ(Holding Register)です。
シンプルCPU通信設定でModbusTCP通信パラメータを定義する
構成例にそって、シンプルCPU通信設定のパラメータを定義していきます。

ナビゲーションウィンドウから、Ethernetインタフェースのパラメータ設定画面を開いておいてください。
自ノードのアドレス設定

自ノードとは、ModbusTCPネットワーク上での三菱PLC自身のことです。
ネットワーク回路構成をもとに、自ノードのIPアドレスとサブネットマスクを、次の通りに入力してください。
- IPアドレス
└ 192.168.3.40 - サブネットマスク
└ 255.255.255.0 - デフォルトゲートウェイ
└ 未設定 ※接続相手が同じサブネットマスクを使っているため不要
シンプルCPU通信設定を有効にする

設定項目一覧から、応用設定内の『シンプルCPU通信設定』を開きます。
直上に『Modbus/TCP設定』の項目がありますが、シンプルCPU通信設定を使ったModbusTCP通信では設定しません。
シンプルCPU通信設定は次のように入力します。
- シンプルCPU通信使用有無
└ 使用する - CPU応答監視タイマ
├ 5
└ s - シンプルCPU通信設定
└ <詳細設定>を開く
シンプルCPU通信の詳細設定

ここでは接続相手先とやり取りするデバイス領域を設定します。
接続相手のFANUCとは入力/出力データをやり取りしたいので、通信パターンは書込/読出の2つを定義します。
ModbusTCP接続における、シンプルCPU通信での設定項目は次の通りです。
設定名称 | 設定No.1の設定 | 設定No.2の設定 |
---|---|---|
通信パターン | 書込 | 読出 |
更新設定 | 定期/100ms | 定期/100ms |
交信相手(転送元) | 自局(自ノードのIPアドレス) | MODBUS/TCP(192.168.3.41) ※交信相手設定を参照 |
交信相手(転送元) | MODBUS/TCP(192.168.3.41) ※交信相手設定を参照 | 自局(自ノードのIPアドレス) |
ワードデバイス(転送元) | 種別:D/先頭(D)9000~最終(D)9079 | 種別:Holding Register/先頭0~最終79 |
ワードデバイス(転送先) | 種別:Holiding Regisger/先頭80~最終159 | 種別:D/先頭(D)9100~最終(D)9179 |
通信タイムアウト時間 | 1000ms | 1000ms |
通信リトライ回数 | 3 | 3 |
異常時監視時間 | 30s | 30s |

読出/書込の相手が同じなので、2項目とも同じ交信相手設定にします。
項目 | 設定 |
---|---|
IPアドレス入力形式 | 10進数 |
機器種別 | MODBUS/TCP対応機器 |
IPアドレス | 192.168.3.41 |
TCP/UDP | TCP |
ポート番号 | 502 ※Modbus/TCP通信では502が既定値 |
自局ポート番号 | 6000 ※1024~4999、5010~61439から選択する |
オプション(16進数) MODBUSアプリケーションヘッダのユニットID | FF |
ゲートウェイ機器を通じてModbus RTU/ASCII対応機器と更新する場合、オプションの値は次のように指定してください。
- 00(ブロードキャスト送信)
- 01~F7(MODBUS RTU/ASCII対応機器の局番)
以上でシンプルCPU通信設定による、ModbusTCP通信の設定は終わりです。
通信ができないとき
ModbusTCP通信がうまくいかないときは、次の確認項目を実施してください。
MODBUS/TCP接続時のトラブルシューティング
参考資料
三菱電機株式会社 MELSEC iQ-R Ethernetユーザーズマニュアル(応用編)シンプルCPU通信設定 R-ETHER-U-OU-J
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