フィールドネットワークの一つであるFL-netは、設備間の信号をやり取りする手段として、大手自動車メーカーで採用されています。
FL-netにはいくつかのバージョンがありますが、Ethernet技術を用いたFL-net(OPCN-2)が2022年現在の主流です。
MELSEC-Q PLCでもFL-net通信を取り扱っており、利用には専用のインタフェースユニットが必要となります。
ここでは通信プロトコルの仕様など難しい話はおいておき、MELSEC-QシリーズでFL-net通信する方法を説明します。
GX-Works 2のインテリジェント機能から設定をおこない、FL-net通信を開通していきます。
GX-Works2をお持ちであれば、参考プログラムをダウンロードしてご自身の環境で設定を確認できます。
FL-netインタフェースユニット本体の仕様
FL-netインタフェースユニットの型式は、QJ71FL71-T-F01です。
ベースユニットへユニットを装着してください。
取り付けたスロット番号により、バッファメモリのアドレスとユニット↔CPUの先頭I/Oが変わります。
そのため、解説内容と異なる部分が発生することをご承知ください。
表示LEDの表示内容
インタフェースユニット上部に、状態表示LEDが搭載されています。
意味と状態は下記のとおりです。
LED名称 | 表示内容 | 点灯時 | 消灯時 |
---|---|---|---|
RUN(緑) | 正常運転表示 | 正常 | 異常 |
LNK(緑) | トークン加入表示 | トークン加入状態 | トークン離脱状態 |
TX(緑) | データ送信状態表示 | データ送信中 | データ未送信 |
PER(赤) | ネットワークパラメータ設定表示 | 設定異常 | 設定正常 |
100M(緑) | 伝送速度表示 | 100Mbps | 10Mbps/未接続時 |
RX(緑) | データ受信状態表示 | データ受信中 | データ未受信 |
CPUユニットに対する入出力信号
FL-netインタフェースユニットは2局専有(32点)です。
基本ベースユニットの0番に取り付けた場合、先頭の入出力信号XY割付はX00~X1F、Y0~Y1Fです。
入力信号 | 信号名称 |
---|---|
X00 | メッセージ送信正常完了信号 ON:正常完了 OFF:ーー |
X01 | メッセージ送信異常完了信号 ON:異常完了 OFF:ーー |
X02 | メッセージ受信中信号 ON:受信中 OFF:未受信 |
X03~X0F | 使用禁止 |
X10 | ネットワークパラメータ書込み完了信号 ON:完了 OFF:ーー |
X11 | ネットワークパラメータ/参加ノード情報読出し完了信号 ON:完了 OFF:ーー |
X12 | 使用禁止 |
X13 | デバイスプロファイル読出し完了信号 ON:完了 OFF:ーー |
X14 | ログ情報クリア完了信号 ON:完了 OFF:ーー |
X15 | ログ情報読出し完了信号 ON:完了 OFF:ーー |
X16 | 使用禁止 |
X17 | 使用禁止 |
X18 | ネットワークパラメータ設定状態信号 ON:異常 OFF:正常 |
X19 | トークン加入状態信号 ON:加入 OFF:離脱 |
X1A | 使用禁止 |
X1B | 使用禁止 |
X1C | ユニットレディ ON:準備完了 OFF:初期化中 |
X1D | 使用禁止 |
X1E | 使用禁止 |
X1F | ウォッチドッグタイマエラー検出信号 ON:検出 OFF:未検出 |
出力番号 | 信号名称 |
---|---|
Y00 | メッセージ送信要求 ON:要求 OFF:ーー |
Y01 | 使用(ON)禁止 |
Y02 | メッセージ受信完了確認 ON;要求 OFF:ーー |
Y03~Y0F | 使用(ON)禁止 |
Y10 | ネットワークパラメータ書込み要求 ON:要求 OFF;ーー |
Y11 | ネットワークパラメータ/参加ノード情報読出し要求 ON:要求 OFF:ーー |
Y12 | 使用(ON)禁止 |
Y13 | デバイスプロファイル読出し要求 ON:要求 OFF:ーー |
Y14 | ログ情報クリア要求 ON:要求 OFF:ーー |
Y15 | ログ情報読出し要求 ON:要求 OFF:ーー |
Y16~Y1F | 使用(ON)禁止 |
FL-net割付表から設定パラメータを導き出す
同一ライン内の設備間でインターロック信号をやり取りには、ほとんどの場合において客先や搬送を主導するメーカーからFL-net割付表が渡されます。
ここでは仮想ネットワークを構築するために作成した割付表を参考に設定していきます。
FL-net割付表の一例
今回のFL-net回線を構成するラインでは、合計7台の設備がネットワークに参加します。
あなたの担当する設備は『加工機3』です。
設備名称 | ノードNo | IPアドレス | コモンメモリ領域1 (ビット) | ビット信号数 | コモンメモリ領域2 (ワード) | ワード信号数 |
---|---|---|---|---|---|---|
集中制御盤 | 1 | 192.168.1.1 | 0000h ~ 0003h | 64ビット | 0000h ~ 03FFh | 1024ワード |
加工機1 | 2 | 192.168.1.2 | 0004h ~ 0007h | 64ビット | 0400h ~ 07FFh | 1024ワード |
加工機2 | 3 | 192.168.1.3 | 0008h ~ 000Bh | 64ビット | 0800h ~ 0BFFh | 1024ワード |
加工機3 | 4 | 192.168.1.4 | 000Ch ~ 000Fh | 64ビット | 0C00h ~ 0FFFh | 1024ワード |
加工機4 | 5 | 192.168.1.5 | 0010h ~ 0013h | 64ビット | 1000h ~ 13FFh | 1024ワード |
加工機5 | 6 | 192.168.1.6 | 0014h ~ 0017h | 64ビット | 1400h ~ 17FFh | 1024ワード |
測定機 | 7 | 192.168.1.7 | 0018h ~ 001Bh | 64ビット | 1800h ~ 1BFFh | 1024ワード |
- その他仕様
- トークン監視タイムアウト時間
└ 10 ms - 最小許容フレーム間隔
└ 100us - メッセージデータ単位
└ ワード
- トークン監視タイムアウト時間
割付表からパラメータに必要な情報を決める
FL-netにおいて自ノードが設定するパラメータは次の2つです。
- 自ノードが専有するコモンメモリの領域
- 他ノードが専有するコモンメモリの情報をCPUデバイスに紐付ける設定
ビットデータのやり取り(サイクリックデータ領域1)
設備間でビットデータをやり取りする際は、サイクリックデータ領域1(コモンメモリ1)を使います。
以下はCPUデバイス、インタフェースユニット、コモンメモリ、3つの対応表です。
エリア名 | CPUデバイス(B****) | FL-netインタフェースユニット バッファメモリ(Un\G****) | FL-net回線 コモンメモリ1 |
---|---|---|---|
自ノードエリア | B00C0 ~ B00FF | Un\G1C0C ~ Un\G1C0F | 000Ch ~ 000Fh |
他ノードエリア(前) | B0000 ~ B00BF | Un\G1C00 ~ Un\G1C0B | 0000h ~ 000Bh |
他ノードエリア(後) | B0100 ~ B017F | Un\G1C10 ~ Un\G1C1B | 0010h ~ 001Bh |
割付表にて加工機3が専有するコモンメモリの領域は000Ch ~ 000Fhでした。
この領域はインタフェースユニットのバッファメモリUn\G1C0C ~ Un\G1C0Fで、加工機3だけが信号の状態を変えられます。
インテリジェント機能設定を使えば、シーケンスプログラム上でバッファメモリを指定しなくても、任意のデバイスで操作できます。
ここではデバイスBに割り付けました。
他ノードのビット入力状態は、読出し対象ノードが専有するコモンメモリに対応したバッファメモリを読み出してください。
ワードデータのやり取り(サイクリックデータ領域2)
次にワードデータをやり取りする、サイクリックデータ領域2(コモンメモリ2)です。
各項目の関係性はサイクリック領域1と同じで、使用するデバイス、バッファメモリ、コモンメモリ、の3点が違います。
エリア名 | CPUデバイス(W****) | FL-netインタフェースユニット バッファメモリ(Un\G****) | FL-net回線 コモンメモリ2 |
---|---|---|---|
自ノードエリア | W0C00 ~ W0FFF | Un\G2C00 ~ Un\G2FFF | 0C00h ~ 0FFFh |
他ノードエリア(前) | W0000 ~ W0BFF | Un\G2000 ~ Un\G2BFF | 0000h ~ 0BFFh |
他ノードエリア(後) | W1000 ~ W1BFF | Un\G3000 ~ Un\G3BFF | 1000h ~ 1BFFh |
抽出した情報からパラメータを設定する
QJ71FL71-T-F01のパラメータは、GX-Works2のインテリジェント機能ユニット設定画面から変更します。
スイッチ設定
自ノードのIPアドレスと動作モードを設定します。
- IPアドレス設定
└ 192.168.1.4 - 動作モード設定
└ オンライン
パラメータ
自ノードが専有するコモンメモリのエリアを設定します。
項目 | 設定値 | 備考 |
---|---|---|
基本設定 | – | – |
├ ノード名(設備名) | 4 | – |
├ サイクリックデータ | – | – |
│├ 領域1 | – | – |
││├ 先頭アドレス | 000C h | コモンメモリ1の先頭アドレスを指定する |
││└ サイズ | 64 bit | ワード数ではなくビット数で指定する |
│└ 領域2 | – | – |
│ ├ 先頭アドレス | 0C00 h | コモンメモリ2の先頭アドレスを指定する |
│ └ サイズ | 1024 word | ワード数で指定する |
├ トークン監視タイムアウト時間 | 10 ms | – |
├ 最小許容フレーム間隔 | 100 us | – |
└ メッセージデータ単位選択 | 0:ワード単位 | – |
自動リフレッシュ
コモンメモリに対するPLC内部リレーを割り付けます。
割付表に関わる取合信号を実装するので、サイクリックデータの領域1(ビットエリア)、領域2(ワードエリア)のみ設定します。
自ノードエリア設定項目
自ノードが専有するバッファメモリを、CPUデバイスへ割り付けます。
項目名 | 設定値 | 備考 |
---|---|---|
デバイス名 | B0C0 | 割り当てたいCPUデバイスの先頭アドレスを設定します |
最終デバイス名 | B0FF | CPUデバイスの先頭アドレスから転送ビット数をオフセットしたアドレスが表示されます |
バッファオフセット値 | 192 | 専有するバッファメモリにおいて先頭アドレスからのオフセット量が表示されます(ビット単位) |
転送ビット数 | 64 | 専有するバッファメモリの領域が表示されます |
他ノードエリア設定項目(前)
自ノードのバッファメモリアドレスより若番を専有する他ノードのバッファメモリを、CPUデバイスへ割り付けます。
項目名 | 設定値 | 備考 |
---|---|---|
デバイス名 | B0 | 使用したいCPUデバイスの先頭アドレスに設定します |
最終デバイス名 | B0BF | CPUデバイスの先頭アドレスから転送ビット数分オフセットしたアドレスが表示されます |
バッファオフセット値 | 0 | 先頭アドレスからのオフセット量が表示されます(ビット単位) |
転送ビット数 | 192 | 専有するバッファメモリの領域が表示されます |
他ノードエリア設定項目(後)
自ノードのバッファメモリアドレスより老番を専有する他ノードのバッファメモリを、CPUデバイスへ割り付けます。
項目名 | 設定値 | 備考 |
---|---|---|
デバイス名 | B100 | 使用したいCPUデバイスの先頭アドレスに設定します |
最終デバイス名 | B1BF | CPUデバイスの先頭アドレスから転送ビット数分オフセットしたアドレスが表示されます |
バッファオフセット値 | 256 | 先頭アドレスからのオフセット量を設定します(ビット単位) |
転送ビット数 | 192 | 専有するバッファメモリの領域を設定します |
デバイス設定
FL-netが専有するデバイスの領域を、PCパラメータのデバイス設定から確保してください。
たとえば今回の仕様だと、サイクリックデータ領域2の転送データサイズは7kワード分が必要です。
転送先のリンクレジスタ(W)のデバイス点数を1kワードに設定すると、自動リフレッシュ設定画面でエラーが生じます。
今回の仕様で必要な最低デバイス点数
リンクリレー(B)は32ワード。
リンクレジスタ(W)は7kワードのデバイス点数が必要です。
FL-netで利用可能な領域に対する最低デバイス点数
FL-netのコモンメモリを最大まで使うとき、リンクリレー(B)は512ワード。
リンクレジスタ(W)は8kワードのデバイス点数が必要です。
【まとめ】コモンメモリの役割とデバイス割付を理解すれば、FL-netは難しくない
データの流れがわかりにくいFL-netですが、一つひとつ条件を当てはめていけば、初めての実装でもうまくできるはずです。
FL-netで重要なのは、コモンメモリ領域を理解すること。
特にFL-netを初めて扱う人は、ビットデータのやり取りとワードデータのやり取りに重点をおいて理解を進めてください。
ここの理屈がわかっていないと、現場での領域変更や追加などに対応できなくなります。
割付表を入手したら、まずは自設備が専有するコモンメモリ領域を確認しましょう。
次に他メーカーの専有領域がわかれば事前準備は完了。あとは割り付けるデバイスを決めて終わりです。
同じ割付表を使ってFANUCでFL-netを実装する方法も解説しています。
三菱しか使わない方でも、他ベンダーのパラメータ設定を参考にしてみると新しい発見があるかもしれません。
参考資料
MELSEC-Q series
FL-net (OPCN-2) インタフェースユニット ユーザーズマニュアル(詳細編)
形名:QJFL71-F01-U-SY-J
【対象ユニット】
-QJ71FL71-T-F01
-QJ71FL71-B5-F01
-QJ71FL71-B2-F01
-QJ71FL71-T
-QJ71FL71-B5
-QJ71FL71-B2
-GX Configurator-FL (SW0D5C-QFLU)
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