設計で抑えるべきサーマルリレーの基礎と選定方法|シーケンス制御ハード設計基礎

この章のまとめ
  • サーマルリレーとは過負荷や欠相による焼損から電動機を保護するための機器
  • 『過負荷保護・拘束保護』『過負荷保護・拘束保護/欠相保護』『遅動型』『速動型』の4つがある
  • 素子とはバイメタルのことで、2素子がバイメタル×2、3素子がバイメタル×3を示す
  • 1Eは2素子のことで、2Eは3素子のことを示す
  • サーマルリレーを選定する際に必要な情報は『定格出力』『定格電圧』『定格電流』の3つ

この章では、サーマルリレーの基礎と選定方法について学びます。

電動機を使用する回路を設計するなら、サーマルリレーは必ず登場します。

過電流や欠相から負荷を安全に保護することで、設備と人命を守る重要な機器です。

サーマルリレーの構造や種類、選定方法を知り、安全な保護回路を確実に設計できるようになりましょう。

目次
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サーマルリレーとは?

整定電流15A(設定範囲12A〜18A)3素子タイプサーマルリレー(型式:TH-T25KP)

サーマルリレーとは、電動機の過負荷や拘束電流を検出し、過電流による負荷の焼損を防止する機器です。

バイメタルという金属が過電流により加熱され湾曲変形することで、接点を強制開放する仕組み。

接点が開放した状態を『トリップ』と呼び、トリップの状態は補助接点にて取得できます。

サーマルリレーが動作する電流値を『整定電流』と呼び、付属のツマミで設定を変更可能です。

ブレーカーとサーマルリレーの違いは?

ブレーカーもサーマルリレーも、過電流を検知して回路を遮断する機器です。

過電流に対して、

  • ブレーカーは配線の焼損保護のため
  • サーマルリレーは負荷の焼損保護のため

に設置するため、用途が異なります。

そもそも、ブレーカーの定格容量は細かく調整できないため、負荷の保護には不適切です。

対してサーマルリレーは負荷の定格電流に合わせて、柔軟に整定電流を設定できます。

サーマルリレーには「過負荷保護型」「過負荷保護/欠相保護型」「遅動型」「速動型」の4種類がある

サーマルリレーには、以下4つのタイプが存在します。

  • 過負荷保護型
    • 過負荷を検知して遮断する
  • 過負荷保護型/欠相保護型
    • 過負荷検知に加えて、欠相を検知して遮断するため欠相時に発熱の多い中容量以上の電動機に適用する
  • 遅動型
    • 始動時に定格電流を超える時間が長い負荷に使用する
  • 速動型
    • 過電流に弱い熱容量が小さい負荷に使用する

一般的には、負荷保護型を使いますが、負荷の動作特性やユーザーの仕様によって使い分けます。

過負荷保護型(2素子タイプ)

過負荷保護型とは、過電流発生時に回路を遮断するサーマルリレーです。

R相とT相に設置された2つバイメタルで過電流を検知するため、2素子タイプと呼ばれています。

安価に負荷の保護をおこなえるのがメリットですが、欠相すると安全に負荷を遮断できないのが弱点です。

R相またはT相が欠相すると、バイメタル1つで回路を遮断することとなり、押し板を押す能力が不足します。

バイメタル1つで回路を遮断するには、多くの熱と時間が必要となり、長時間の過電流で負荷側が焼損に至るということです。

欠相時にも負荷を保護したい場合は、次に紹介する3素子タイプのサーマルリレーを使いましょう。

過負荷保護型/欠相保護型(3素子タイプ)

過負荷保護型/欠相保護型とは、過電流に加えて欠相発生時にも回路を遮断するサーマルリレーです。

R相、S相、T相に設置された3つのバイメタルが、過電流時に湾曲して回路を遮断します。

主に回転子の構造により、欠相時に高温となる中容量(30kW)以上の電動機への保護に最適です。

2素子タイプとは異なり、3素子タイプではどの相が欠相しても2つのバイメタルが押し板を押す役割を担います。

そのため、押し板を押す力が強く、負荷が高温となる前に回路を安全に遮断できるのです。

バイメタルが増える分、コストも増加するため、欠相で確実に回路を遮断したい場合に適用してください。

遅動型

遅動型とは、過電流を検知してから遮断までの猶予時間が長いサーマルリレーです。

始動時間の長い負荷は、長時間定格以上の電流が流れるため、標準型では始動中に意図しないトリップが発生します。

飽和リアクトルを追加することで、遮断までの猶予時間が長くとり、始動時の過電流によるトリップを防ぐことが可能です。

2素子(過負荷保護・拘束保護)、3素子(過負荷保護・拘束保護+欠相保護)あり

速動型

速動型とは、過電流を検知してから遮断までの猶予時間が短いサーマルリレーです。

遮断までの時間が短いため、過電流で負荷が熱を持つ前に回路を遮断できます。

主に熱に弱い負荷に対して使用します。

2素子(過負荷保護・拘束保護)、3素子(過負荷保護・拘束保護+欠相保護)あり

サーマルリレーの1E、2Eの違い

サーマルリレーの説明で、『1E』や『2E』と書かれていることがあります。

1Eは2素子タイプのサーマルリレーことで、2Eは3素子タイプのサーマルリレーのことです。

機能はサーマルリレーの種類で紹介した通りで、おさらいとして下記に機能を示しておきます。

種類保護能力特徴
1E過負荷保護・拘束保護バイメタルが2つ(R,T相)
2E過負荷保護・拘束保護+欠相保護バイメタルが3つ(R,S,T相)

三菱電機製サーマルリレーの選定方法

ここでは、下記の電動機に適合するサーマルリレーを選定してみましょう。

定格出力22kW
定格電圧200V
定格周波数60Hz
極数6P
100%負荷時電流82.7A
始動電流508A
データ引用元:東芝プレミアムゴールドモートル
電動機の制御仕様
  • 電動機の始動時間は3秒程度
  • 欠相保護は不要
  • 電動機の熱耐性は普通

サーマルリレーは三菱電機製のTH-T/N形サーマルリレーから選定します。

負荷の運転・保護条件からサーマルリレータイプを選択する

三菱電気のサーマルリレーの種類には、

  • 過負荷保護型
    • TH型(標準・2素子(1E)付)
      • 一般的な過負荷・拘束保護
  • 過負荷保護/欠相保護型
    • TH-KP型(3素子(2E)付)
      • 過負荷・拘束および欠相保護
  • 遅動型
    • TH-SR型(飽和リアクトル付2素子(1E))
    • TH-SRKP型(飽和リアクトル付3素子(2E))
      • 始動時間の長いモーター、寸動、間欠運転の頻繁な用途
  • 速動型
    • TH-T□FSKP(3素子(2E)速動特性)
      • 水中モーター、安全増防爆形モーターの保護
    • TH-FS(2素子速動作特性)
      • 冷凍機用コンプレッサーモーターの保護

の4つがあります。

負荷の運転・保護条件から、4つのうちどれに当てはまるのかを確認しましょう。

電動機の制御仕様
  • 電動機の始動時間は3秒程度
  • 欠相保護は不要
  • 電動機は汲み上げポンプの駆動に使用

電動機の仕様が上記の条件なら、過負荷保護型で十分です。

なのでTH形(標準・2素子付)を選定します。

負荷の定格からサーマルリレーのフーレムサイズとヒーター呼びを決める

負荷の定格から、サーマルリレーのフレームサイズ(大きさ)とヒーター呼び(定格容量)を決めます。

定格出力22kW
定格電圧200V
定格周波数60Hz
極数6P
100%負荷時電流82.7A
始動電流508A
データ引用元:東芝プレミアムゴールドモートル

サーマルリレーを選定するに当たって必要な情報は『定格出力』『定格電圧』『100%負荷時の電流』の3つです。

この3つの情報をもとに、サーマルリレーの適用表を見てみましょう。

ヒーターの呼びが82Aなら調整範囲も65~100Aなので、100%負荷時の電流82.7Aをカバーできます。

三相200Vの22kW電動機に適用できるサーマルリレーのフレームサイズは、

  • T100
  • N120
  • N220

から選ぶことになりますが、コスト的な観点から最小サイズのT100を選択するのがベターです。

三相200V、22kWの電動機に適用できるサーマルリレーの型式は…

これまでの選定の結果は以下のとおりです。

  • タイプ
    • TH形(標準・2素子付)
  • フレームサイズ
    • T-100

これらの結果をもとに、注文するべきサーマルリレーの型式は『TH-T100 ヒーター呼び82A』となります。

電動機の焼損事故を防ぐためサーマルリレーは適切に選択しよう

この章のまとめ
  • サーマルリレーとは過負荷や欠相による焼損から電動機を保護するための機器
  • 『過負荷保護・拘束保護』『過負荷保護・拘束保護/欠相保護』『遅動型』『速動型』の4つがある
  • 素子とはバイメタルのことで、2素子がバイメタル×2、3素子がバイメタル×3を示す
  • 1Eは2素子のことで、2Eは3素子のことを示す
  • サーマルリレーを選定する際に必要な情報は『定格出力』『定格電圧』『定格電流』の3つ

電動機を運転する回路には、焼損防止の為にサーマルリレーは必須です。

不適切なサーマルリレーを使用した場合、電動機が壊れるだけは済まず、火災となる可能性も十分あります。

回路保護は設備と人命を守る砦です。

確実な選定ができるよう、本章の復習だけでなく、メーカーの取扱説明書を読むなどして理解度をあげましょう。

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