- 交流変圧器(トランス)とは電圧を変換する機器
- ダウントランス ⇒ 1次側入力電圧 > 2次側出力電圧
- アップトランス ⇒ 1次側入力電圧 < 2次側出力電圧
- トランスの性能は以下の5点で表される
- 相数(P)
- トランス容量(VA)
- 1次側電圧(V)
- 2次側電圧(V)
- 絶縁の種類
- シーケンス制御でよく使うトランスは以下の2つ
- 単相乾式絶縁変圧器
- 三相乾式絶縁変圧器
- トランス容量=2次側電流値 × 需要率 × 2次側電圧 (×√3 ※三相交流の場合)
- トランス1次側のブレーカーは以下の手順で選定する
- トランス容量と1次側電圧から定格電流を計算する
- 定格電圧に安全率を乗じる
- ブレーカーのモデルと定格電流を仮選定する
- トランスの突入電流でトリップしないことを確認する
この章では、乾式交流変圧器(おもにダウントランス)の役割と選定方法について学びます。
ハード設計において度々登場するのがトランスです。
電圧を変換する機能を持つため、一つの電源電圧から複数の電圧を取り出せます。
そんなトランスも容量の選定や保護回路の組み方は、知識がないと適切に設計できません。
選定・保護の知識は、新規設計以外にもトランスの更新でも役立つため、この機会にトランスの使い方を理解しておきましょう。
交流変圧器(トランス)とは電圧を変換する機器
引用元:布目電機 国内規格品トランス
交流変圧器(以下トランス)とは、1次側に入力された交流電圧を変換して2次側に出力する機器。
- アップトランス
- ダウントランス
という種類があり、1次側入力電圧に対し2次側出力電圧を上げたり下げたりできます。
たとえば、1次側に単相交流200Vを入力し、2次側では単相交流100Vを出力するといった具合です。
ダウントランスは電圧を下げることが目的で『1次側電圧 > 2次側電圧』となるよう設計されています。
トランス仕様の見かた
トランスの仕様は主に下記の5種類で構成されています。
相数 | 単相と三相がある |
---|---|
トランス容量 | 2次側における皮相電力の最大値 |
1次側電圧 | 1次側に入力する電圧 |
2次側電圧 | 2次側で出力される電圧 |
絶縁の種類 | 絶縁能力が保証される最高温度 |
相数
単相交流用と三相交流用があります。
トランス容量
トランス容量とは、安全に使用できる2次側皮相電力の限界値のことです。
単位はVA(ボルトアンペア)で表されます。
容量を超えて使用すると、トランス本体が過熱して焼損する恐れがあるため、選定には注意が必要です。
皮相電力について詳しく
1次側電圧
トランスの1次側に入力する電圧のことです。
1次側の電源電圧が200Vなら、200Vの端子へ。
220Vなら220Vの端子へ接続するよう、電源電圧と同じトランス側の端子へ接続します。
2次側電圧
2次側電圧とは、トランスから出力される電圧のことです。
複数の出力電圧がある場合は、その中から取り出したい電圧へ電線を接続します。
絶縁の種類
絶縁の種類とは、トランスの絶縁能力が保証される最高温度のこと。
各絶縁の種類は下記のとおりです。
絶縁の種類 | 許容最高温度 |
---|---|
Y種 | 90℃ |
A種 | 105℃ |
E種 | 120℃ |
B種 | 130℃ |
F種 | 155℃ |
H種 | 180℃ |
C種 | 180℃以上 |
トランスの容量が大きくなるほど発熱量も比例して多くなるため、容量にあわせてメーカーで適切な種類が割り付けられています。
乾式トランスの種類は主に4種類
乾式トランスのラインナップは、主に以下の4種類です。
- 単相乾式絶縁変圧器★
- 三相乾式絶縁変圧器★
- V逆V結線絶縁変圧器
- スコット結線絶縁変圧器
シーケンス制御においてよく使用するのが『単相乾式絶縁変圧器』と『三相乾式絶縁変圧器』の2つ。
『V逆V結線絶縁変圧器』と『スコット結線絶縁変圧器』はめったに使用しないため、ここでの解説から省きます。
単相乾式絶縁変圧器
単相乾式絶縁変圧器とは、1次側に入力した単相交流電圧を、電圧を下げて2次側に出力する機器。
上記の図では、三相交流電源のR相とS相から単相を取り出し、降圧して2次側に出力します。
1次側はR相の電圧に合わせて180V、200V、220Vに接続。
2次側は取り出したい電圧にあわせて100Vか110Vに接続します。
三相乾式絶縁変圧器
三相乾式絶縁変圧器とは、1次側に入力した三相交流電圧を、電圧を下げて2次側に出力する機器。
上記の図では、1次側の電圧に合わせて380V、400V、440Vを選択し、R相→U、S相→V、T相→Wに接続します。
2次側では、200Vまたは220Vに降圧したu→R相、v→S相、w→T相を得ることが可能です。
トランスの選定方法
ここでは下記の回路内のトランスTrにおける、容量の選定方法を解説していきます。
- 1次側の入力は単相交流200V
- 2次側は単相交流100Vを出力
- 2次側の負荷は『負荷1:5A』『負荷2:8A』『負荷3:10A』の3種類
- 負荷1と負荷3は同時に運転することはなく、いずれかのみ
- 設置場所は周囲温度40℃以下の密閉された制御盤内(屋内)
- 安全仕様は日本国内規格品に準ずる(JEM1310/JEC2200準拠)
トランス容量を選定する手順は下記のとおりです。
- 2次側負荷の運転パターンを調べる
- 2次側電流と余裕率から容量を決定する
布目電機カタログ ⇒ https://www.nunome.co.jp/products/kokunai/
需要率とは、2次側負荷のうち同時に稼働している割合のことです。
今回の選定条件に「負荷1と負荷3は同時に運転することはなく、いずれかのみ」とあるため、
- 負荷1のみ = 5A
- 負荷2のみ = 8A
- 負荷3のみ = 10A
- 負荷1と負荷2 = 13A
- 負荷3と負荷2 = 18A
が運転パターンになります。
この中で最も消費電流が高いのは『負荷3と負荷2』の組み合わせで、18Aです。
つまりトランスの容量を選定する際は、2次側電流18Aを基準に計算をおこないます。
トランスに求められる容量について、2次側の電流値18Aを満足するものを選定します。
まずは最低限必要な容量を割り出しましょう。
トランスの最低必要容量[VA] = 2次側出力電圧[V] × 2次側電流[A]
1,800VA = 100V × 18A
上記の結果より、トランスに求められる最低限の容量は1,800VAであることがわかりました。
STEP2で算出した1,800VAに余裕率1.1倍を乗じることで、安全なトランス容量を選定できます。
安全なトランス容量[VA] = トランスの最低必要容量[VA] × 余流率1.1倍
1,980VA = 1,800VA× 1.1
安全率を乗じた結果、1,980VA以上のトランスを選定すれば安全に利用できることがわかりました。
市販されているトランスは標準容量に従って制作されているため、1,980VAという中途半端な製品はありません。
標準容量品の中から、計算で求めた安全なトランス容量を越える最小の製品を選択します。
布目電機の国内規格品から、単相200V入力、単相100V出力の製品で約2kVAの容量に対応しているのは、
引用元:布目電機 総合カタログ
『単相乾式絶縁変圧器(B種絶縁) NESB□□AE21』
であり、当製品の容量ラインナップは下記のとおりです。
容量[VA] | 型式 |
---|---|
30 | NESB30AE21-[電圧仕様] |
50 | NESB50AE21- [電圧仕様] |
75 | NESB75AE21-[電圧仕様] |
100 | NESB100AE21-[電圧仕様] |
150 | NESB150AE21-[電圧仕様] |
200 | NESB200AE21-[電圧仕様] |
250 | NESB250AE21-[電圧仕様] |
300 | NESB300AE21-[電圧仕様] |
400 | NESB400AE21-[電圧仕様] |
500 | NESB500AE21-[電圧仕様] |
600 | NESB600AE21-[電圧仕様] |
750 | NESB750AE21-[電圧仕様] |
1k | NESB1000AE21-[電圧仕様] |
1.5k | NESB1500AE21-[電圧仕様] |
2k (2000VA) | NESB2000AE21-[電圧仕様] |
3k | NESB3000AE21-[電圧仕様] |
4k | NESB4000AE21-[電圧仕様] |
5k | NESB5000AE21-[電圧仕様] |
6k | NESB6000AE21-[電圧仕様] |
7.5k | NESB7500AE21-[電圧仕様] |
10k | NESB010AE21-[電圧仕様] |
欲しいトランスの容量1,980VAに対して、容量2kVAの『NESB2000AE21-[電圧仕様]』が要件を満たしています。
引用元:布目電機 総合カタログ
今回は200V入力/100V出力なので、『NESB□□AE-21-00』が電圧仕様を示す型式です。
容量と電圧の仕様から、最終的な型式は『NESB2000AE21-00』となります。
トランス保護用の1次側ブレーカー選定方法
トランスを設置する際に、トランスを保護するためのブレーカーを設置しないといけません。
ここではトランスの選定方法で利用した回路に、ブレーカーの追加をおこないます。
トランス保護用ブレーカーの選定手順
- トランスの1次側定格電流を計算する
- トランスの1次側定格電流からブレーカーの定格電流を計算する
- ブレーカーの定格電流からモデルを選択する
- トランスの突入電流でブレーカーがトリップしないかチェックする
今回使用するトランスの容量は2,000VAです。
1次側の電圧は単相200Vなので、下記の式から1次側の定格電流を計算できます。
1次側定格電流[A] = 容量[VA] ÷ 1次側電圧[V]
10A = 2000VA ÷ 200V
以上の結果から、トランス1次側の定格電流は10Aであることがわかりました。
トランス1次側の定格電流に安全率を乗じることで、ブレーカーの定格電流に余裕をもたせます。
1次側ブレーカーの定格電流[A] = トランスの1次側定格電流[A] × 安全率1.1倍
11.1A = 10A × 1.1
定格電流が10Aのトランスでは、安全をとって11.1Aの電流を想定してブレーカーを選定します。
1次側ブレーカーに求められる定格電流は11.1Aですが、標準定格電流には存在しません。
そのため標準定格電流の中から、11.1Aより大きい最小の定格電流を選択します。
三菱電機製のブレーカーを使用する場合、定格電流が50A以下なら制御盤用遮断器 NF-FAシリーズが最適です。
参考:制御盤用遮断器(FAシリーズ)ノーヒューズ遮断器 仕様
今回は定格電流が30A以下、そして単相2線式なので、30AF 2P品を選定します。
そうすると型式はNF30-FA 2Pとなり、標準定格電流5A、10A、15A、20A、30Aから選択可能です。
今回は11.1Aより大きい最小の定格電流を選択したいので、15Aを選びます。
これらの選定結果から『NF30-FA 2P 定格電流15A』というブレーカーが選定できました。
トランスに通電したとき、1次側定格電流に対して20~30倍もの突入電流が流れます。
ブレーカーの動作特性次第では、突入電流により意図せぬトリップを招く場合もあるため注意が必要です。
そのため、瞬時引きはずし電流の最小値が突入電流より小さいことを確認しないといけません。
トランスに流れる突入電流は0.01秒以下なので、動作時間0.01秒時の電流が突入電流を上回っていればOKです。
NF-30FAの動作特性曲線を下記に示すので、確認してみましょう。
0.01秒時の倍率が約35倍。ブレーカーの定格電流が15Aなので、瞬時引きはずし電流の最小値は約525Aです。
突入電流については『トランス1次側の定格電流×励磁突入電流の倍率』で求めらます。
トランス1次側の定格電流が10A、励磁突入電流の倍率が23倍と仮定すると突入電流は約230Aです。
以上の結果より、
ブレーカーの0.01秒時点の遮断電流値(525A) >トランスの励磁突入電流(230A)
が成立するため、選定したNF30-FAは突入電流でトリップしないことがわかります。
布目電機製『NESB2000AE21-00』の1次側保護ブレーカーは、三菱電機製『NF30-FA 2P 定格電流15A(30AF/15AT)』が適切です。
トランスの選定方法がわかれば電圧が混在する回路を作れる
- 交流変圧器(トランス)とは電圧を変換する機器
- ダウントランス ⇒ 1次側入力電圧 > 2次側出力電圧
- アップトランス ⇒ 1次側入力電圧 < 2次側出力電圧
- トランスの性能は以下の5点で表される
- 相数(P)
- トランス容量(VA)
- 1次側電圧(V)
- 2次側電圧(V)
- 絶縁の種類
- シーケンス制御でよく使うトランスは以下の2つ
- 単相乾式絶縁変圧器
- 三相乾式絶縁変圧器
- トランス容量=2次側電流値 × 需要率 × 2次側電圧 (×√3 ※三相交流の場合)
- トランス1次側のブレーカーは以下の手順で選定する
- トランス容量と1次側電圧から定格電流を計算する
- 定格電圧に安全率を乗じる
- ブレーカーのモデルと定格電流を仮選定する
- トランスの突入電流でトリップしないことを確認する
トランスのメリットは、電源電圧以外の電圧を自由に作れることです。
特に回路の規模が大きくなると、異電圧の機器が混在することが多いため、トランスの選定知識が必須となります。
そこで適切な容量、保護ができていないと、機器が正常に動作しなかったり、火災につながるため危険です。
機器の追加等でトランスの容量アップする際も、選定の知識が役立つので、しっかりと理解しておきましょう。
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