有効電力W(ワット)と皮相電力VA(ボルトアンペア)の違いと三相交流の計算方法|シーケンス制御ハード設計基礎

この章のまとめ
  • 皮相電力VAは送電した電力の総和を指す。
  • 設備容量は設備全体の皮相電力を指す。
  • 有効電力Wは、皮相電力のうち仕事のために使われた電力を指す。
  • 有効電力の割合は、力率[cosθ]で示される。
  • ヒーターや白熱電球の電流[A]は、出力[W]、電圧[V]で計算できる。
  • モーター(電動機)の電流[A]は、出力[W]、効率[%]、力率[cosθ]、電圧[V]で計算できる。
  • 単相交流の場合、計算式から√3を省く。

この章では、電力について種類と計算方法について学びます。

電力を理解していないと、シーケンス制御におけるハード設計で交流回路を扱えません。

ここでは電力のすべてを取り扱わず、シーケンス制御エンジニアに必要な基礎部分だけを説明します。

目次
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消費電力とは『有効電力W』『無効電力var』『皮相電力VA』の3つで構成される

消費電力とは、

  • 有効電力(W)
  • 無効電力(var)
  • 皮相電力(VA)

の3要素で構成されています。

シーケンス制御においてよく利用されるのは『有効電力(W)』と『皮相電力(VA)』の2つです。

有効電力W(ワット)とは仕事をするために使われた電力

W(ワット)は有効電力と呼ばれ、実際に仕事した電力を指します。

消費電力全体(皮相電力VA)のうち、有効に使われた電力分のみを抽出した値です。

モーター(電動機)の出力が22kWである場合、皮相電力(VA)のうち22kW分の有効電力が仕事に使われます。

計算式

有効電力(W)=皮相電力(VA)-無効電力(var)

無効電力var(バール)とは仕事をしなかった無駄な電力

var(バール)とは無効電力と呼ばれ、送電されたが仕事をしない無駄な電力を指します。

消費電力全体(皮相電力VA)のうち、何の仕事もしない電力分を抽出した値です。

力率が100%に近いと無効電力の値が小さくなり、電力をロスなく仕事に変換できていると言えます。

逆に力率が低くなるほど無効電力の値が大きくなり、電力の割には仕事量が小さく無駄が多いと言えます。

計算式

無効電力(var)=皮相電力(VA)-有効電力(W)

皮相電力VA(ボルトアンペア)とは有効電力+無効電力の和

VA(ボルトアンペア)とは皮相電力と呼ばれ、有効電力(W)と無効電力(var)の総和です。

単位が表すとおり、電圧(V)と電流(A)の乗算でも求められます。

設備全体が消費する電力の総容量である『設備容量』は、皮相電力のことです。

計算式

皮相電力(VA)=有効電力(W)+無効電力(var)

三相交流電源における『有効電力W』『無効電力var』『皮相電力VA』の計算方法

『有効電力(W)』『無効電力(var)』『皮相電力(VA)』を求めるとき、

  • 電圧(V)
  • 電流(A)
  • 力率(cosθ)

の3要素を使って計算できます。

力率(cosθ)とは、皮相電力(VA)における有効電力(W)の割合のことです。

どれだけ電力を効率よく仕事に変換できるかという指標であり、力率が高いほど電力のロスは小さくなります。

電圧(V)、電流(A)、力率(cosθ)を使って計算する方法

有効電力の計算式一覧
  • 有効電力(W)=皮相電力(VA)×力率(cosθ)
  • 有効電力(W)=電圧(V)×電流(A)×力率(cosθ)×√3
無効電力の計算式一覧
  • 無効電力(var)=皮相電力(VA)×(1-力率(cosθ))
  • 無効電力(var)=電圧(V)×電流(A)×(1-力率(cosθ))
皮相電力の計算式一覧

皮相電力(VA)=電圧(V)×電流(A)

三相交流のモーター(電動機)とヒーターを例に、電圧(V)と消費電力(W)から電流値(A)と皮相電力(VA)を求めてみる

三相交流ヒーターの場合

ヒーターは電力を熱に変換する機器なので、効率および力率は100%です。

そのため、三相交流ヒーターの電流値は、下記の計算式で求められます。

三相交流ヒーターの電流計算式

電流[A] = 出力[W] ÷ (電圧[V] × √3)

5kWの三相交流ヒーターを200Vで使用した場合の電流値は下記のとおりです。

5kW三相交流ヒーターの電流計算式

電流[A] = 出力[W] ÷ (電圧[V] × √3)

14.4 = 5,000 ÷ (200 × √3)

5kW三相交流ヒーターの電流値は14.4Aであることがわかる。

白熱電球など電力を光や熱に変換する機器は、同様の計算式で電流を求められます。

ヒーターの効率および力率は100%であり、送電した電力は100%仕事に利用されるということです。

皮相電力(VA)は有効電力(W)と一致するため、5kW三相交流ヒーターの皮相電力は5kVA(5,000VA)となります。

三相交流モーター(電動機)の場合

モーター(電動機)の電流値は、下記の計算式で求められます。

モーター(電動機)の電流計算式

電流[A] = 出力[W] ÷ (効率[%] × 力率[%] × 電圧[V] × √3)

上記の計算式を使って、下記のモーター(電動機)における100%時の電流値を割り出してみましょう。

出力
[kW]
電圧
[V]
周波数
[Hz]
定格電流
[A]
100%時
効率[%]
100%時
力率[%]
100%時
電流[A]
22200608093.686.578.5
データ引用元:東芝低圧三相かご形誘導電動機プレミアムゴールドモートル
22kWモーターの100%時電流の計算式

100%時電流[A] = 出力[W] ÷ (100%時効率[%] × 100%時力率[%] × 電圧[V] × √3)

78.5 = 22,000 ÷ (0.936 × 0.865 × 200 × √3)

22kWモーター(電動機)の100%時電流は78.5Aであることがわかる。

このように、モーター(電動機)のカタログスペックから電流を求めることが可能です。

効率と力率がわからないときは、下記の値を当てはめて計算すると電流の概算値を得られます。

  • 効率 90%
  • 力率 80%

モーターの性能によって上記の値は変わるため、あくまでも概算値として利用にとどめてください。

22kWモーター(電動機)の皮相電力は、次の計算式で求められます。

22kWモーターにおける100%時の皮相電力計算式

皮相電力[VA] = 電圧[V] × 100%時電流[A] × √3

27,193 = 200 × 78.5 × √3

22kWモーター(電動機)の100%運転時における皮相電力は27.2kVA(≒27,193VA)であることがわかる。

シーケンス制御で抑えるべきは、有効電力W、皮相電力VAの違いと電流値の計算方法

この章のまとめ
  • 皮相電力VAは送電した電力の総和を指す。
  • 設備容量は設備全体の皮相電力を指す。
  • 有効電力Wは、皮相電力のうち仕事のために使われた電力を指す。
  • 有効電力の割合は、力率[cosθ]で示される。
  • ヒーターや白熱電球の電流[A]は、出力[W]、電圧[V]で計算できる。
  • モーター(電動機)の電流[A]は、出力[W]、効率[%]、力率[cosθ]、電圧[V]で計算できる。
  • 単相交流の場合、計算式から√3を省く。

シーケンス制御のハード設計において、電力の計算スキルは必須です。

計算ができないと、正しい保護回路の設計や電線の選定ができません。

理論を理解する必要はないですが、機器のデータから各値を計算できるようにしておきましょう。

参考資料

ワットとボルトアンペアの違い|電気設備の知識と技術

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