「シーケンス制御はもう下火」「将来性のない仕事だからやめたほうがいい」そんな声を一度は耳にしたことがあるかもしれません。そうした言葉に一度でも触れてしまうと「制御設計を続けて大丈夫なのだろうか」と不安になるのは当然です。
たしかにシーケンス制御は登場から現在まで最前線で使用されている枯れた技術であり、これ以上の革新的な進化が見込める分野ではありません。「技術の進歩=将来有望な仕事」だと考えるなら、シーケンス制御に将来性がないと言われるのは当然です。
しかし技術の進歩が見込めないことと、その仕事で食っていけなくなることはまったく別の話です。
制御設計を取り巻く市場は売り手優位のバブル状態。シーケンス制御のスキルを持った経験者の需要は旺盛で、その傾向は中途採用の求人市場から確認できます。
背景にあるのは若手人材の減少と製造業離れ、そしてベテラン層の定年退職ラッシュです。新卒から制御設計へ進む人材が減少し、育成が難しい状況であるため、即戦力である中途採用のニーズがかつてないほど高まっています。
実際メイテックネクスト の公開求人を見てみると、制御設計に関する求人が多数掲載されています。公開求人以外にも、登録したあと紹介してもらえる非公開求人も豊富です。
とくに求人の年収はここ数年で一気に上昇しています。私が初めて転職した2015年当時はメイテックネクスト を利用して年収400万円台から530万円までアップしました。現在は提示年収の相場は明らかに上がっています。最近だと600万円を超える求人も増加しています。
こうしたデータが示すのは、シーケンス制御エンジニアの未来は明るいという事実です。
枯れた技術であっても、社会が求める限り将来性がなくなることはありません。代替技術も登場していないので、シーケンス制御の優位性はまだまだ健在です。
もし将来への不安や迷いを感じているのであれば、これからお伝えする内容をぜひ読み進めてみてください。制御設計という仕事がいかに食いっぱぐれない仕事であるかを改めて確認できるはずです。

制御設計エンジニアは常に人材不足で「需要>供給」の状態です。新卒の採用難易度が高まったおかげで、中途採用にスポットライトが当てられています。
制御設計エンジニアが安定して働ける3つの理由
- 制御設計エンジニアは常に人手不足
- 若年層のモノづくり離れ
- 転職先が豊富かつ年収も高い
理由①:制御設計エンジニアは常に人手不足
制御設計エンジニアは、昔から慢性的な人手不足の職種です。私がこの道に入った10年前も人材不足は明らかで、その状況は現在まで続いています。むしろ2025年の今では、人材がさらに減り続けているのが実情です。
制御設計業界がニッチすぎる
以下のツイートは、制御設計やシーケンス制御に関する機電系の認知度について意見を募集したときのものです。
アラサーですが、工業高校の授業でシーケンス制御として合計4コマやりました。
スタートスイッチ、コンベア、ワークセンサくらいの規模だったかと。
大学、大学院では全く触れませんでした
引用元:https://x.com/sam_industry/status/1532605066821382144?s=20
制御設計の認知度は、残念ながら高いとはいえません。大学などの教育課程で体系的に学ぶ機会がほとんどなく、新卒から制御設計エンジニアを志す人材はごくわずか。結果的に、中途からこの職種を目指す人が中心になっています。
シーケンス制御を学んだ人や資格がある人しかできないと勘違いされている
他部署のメンバーをスカウトした際に、ほとんどが口をそろえて以下のように答えました。



シーケンス制御を勉強したことがないから無理だよ
では、本当にシーケンスを学んだ人しか制御設計を担えないのでしょうか。答えは「NO」です。
シーケンス制御の知識や資格がなくても、この仕事に就くことは可能です。制御設計は電気を扱う仕事ではあるものの、必須資格は存在しません。むしろ、資格がなくても始められる点が大きな魅力といえるでしょう。
ただし、電気は扱いを誤れば事故につながる危険なもの。安全な設計をおこなうために必要な、電気からシーケンス制御までの幅広い基礎知識をゼロから身につけるのは大変です。
それでもこの業界に興味を持って飛び込んできた、多くのエンジニアが学びながら働いているのが現実です。
制御設計業界の情報が少ない
制御設計の転職事情に関する情報は、他の業種と比較して少ないと言わざるを得ません。メーカーや業界団体が統計や論文を公開しているものの、実際に目を通す人は多くないでしょう。
特に、給与水準や具体的な仕事内容といった情報はほとんど出回っていません。ここが異業種から制御設計を選択する際の大きなネックです。
近年はブログやSNSで業界内の体験談を発信する人が増え、昔よりは情報を得やすくなりました。とはいえ、機械設計のようなメジャー職種に比べると発信者は少数派。しかも、その多くが技術解説に偏っており、業界事情やキャリア形成に触れるケースはほとんど見かけません。
そもそも制御設計エンジニア自体の人口が少なく、情報発信まで行う人はさらに限られているのが実情です。結果として人手不足が情報不足を招き、それが新規参入を妨げる負のサイクルが続いているわけです。



制御設計業界の情報について、当サイトが情報発信の役割を担っています。トップページに情報関係のリンクをまとめてあるので、ぜひご覧ください。
理由②:若年層のモノづくり離れ


制御設計エンジニアの需要が高い理由のひとつに、若年層の製造業離れがあります。
厚生労働省の統計によると、2000年以降、ものづくりに携わる若年層の数は右肩下がり。「きつい・汚い・危険」を意味する3Kのイメージが強く、製造業が敬遠されていることが大きな要因です。
一方で、人気がないからこそ参入のチャンスが広がっているともいえます。
- 若い人材が少ないため、未経験の中途でも採用されやすい
- 工場の自動化が進み、制御設計の仕事が増えている
- 機械の保守や改造といった需要も拡大している
若者の製造業離れはデメリットしかないわけではなく、中途人材に取って有利な環境であるというのが現状です。
工場の自動化で仕事が増える


製造業の人気が低下し、人材確保が難しくなるなか、工場の自動化はもはや避けられない課題です。今後も製造業に従事する若手は減少していくと考えられるため、自動化の流れはますます加速していきます。
製造業の景気を示す指標のひとつに「工作機械受注統計」があります。2020年のコロナショック時を除けば、機械の受注数は緩やかに増加。つまり、働き手は減っているのに対し、設備投資は伸びているというわけです。
さらに、日本社会全体が少子高齢化に突入していることも人材不足を後押ししています。結果として、自動化はこれからの製造業における必然のトレンドです。
工場の自動化が進むほど、制御設計エンジニアの役割は大きくなります。仕事の幅も需要も拡大していくため、今後は右肩上がりの成長が期待できる職種です。
機械の保守・メンテナンス需要が増える


制御設計のスキルは、設計業務だけでなく保全やサービスエンジニアの分野でも強く求められています。工場の自動化が進むほど、設備を止めないための保守が欠かせないからです。
保全やサービスエンジニアには、突発的なトラブルに対処する力が必要になります。その際、適切な対応を行うためには制御設計の知識が不可欠です。実際、多くの企業で制御設計の経験が歓迎条件として挙げられています。
つまり、自動化の拡大とともに保守・メンテナンスの需要は右肩上がりに伸びていくということです。制御設計のスキルを持っていれば、今後も安定して働ける場を見つけるのは容易いでしょう。
理由③:転職先が豊富で年収も高い
制御設計エンジニアは慢性的な人手不足が続いており、多くの企業が採用に力を入れています。そのため求人は年間を通して安定して公開されており、平均年収も約540万円と高水準です。
制御設計エンジニアが転職に強い理由は大きく3つあります。
- 幅広い職種で活躍できる
- 多様な業種から仕事を選べる
- 需要が高いため年収が上昇傾向にある
幅広い職種に仕事がある
制御設計エンジニアの活躍の場は、新しい設備を設計するだけにとどまりません。
- 新規設備の設計
- 設備保全
- サービスエンジニア
- フリーランス
- 情報発信者
先ほどの「保守・メンテナンス需要」で触れたとおり、制御設計のスキルは設計以外の分野でも役立ちます。保全やサービスエンジニアとしての仕事に直結するだけでなく、専門性を磨けばフリーランスとして独立する道もあるでしょう。私自身も業務を通じて、自由な働き方を選んでいるフリーランスの方々と出会ってきました。
情報発信によって収益を得ることも可能です。当サイトのように制御設計の知見や業界事情を発信すれば、広告収入を副業につなげられます。具体的な方法については「制御設計エンジニアが副業で月1万円稼ぐ方法」で紹介していますので、参考にしてみてください。
業種が豊富なので興味のある職を見つけやすい
制御設計のスキルは工作機械など身近な製造メーカーだけでなく、さまざまな業界で活かせます。たとえば以下のような分野です。
分類 | 用途例 |
---|---|
設備監視・制御 | プラント(上下水道・水処理・ゴミ処理)、ビル監視システム、受変電設備監視システム、植物工場等 |
ライン制御 | 自動車組立てライン・塗装ライン、鉄鋼圧延ライン・連続鋳造ライン、各種試験ライン等 |
搬送設備・運搬機械 | クレーン、コンベア、エレベータ、駐車装置、立体自動倉庫装置、新交通システム、トンネル換気設備等 |
製紙・印刷機械 | 抄紙機、ワインダ、スリッタ、製本機械、印刷機械、新聞輪転機等 |
繊維機械 | 紡糸機、仮より機、延伸ねん糸機、織機、編組機、染色仕上機等 |
食品・包装機械 | 製パン機、製菓機、製茶機、製麺機、精米麦機、製粉機、ミキサー、スライサ、内装機、荷造り機、外装機、ラップ包装機、飲食物包装機等 |
半導体・液晶製造装置 | ウェハー製造装置、ステッパ、洗浄装置、PI印刷装置、ラッピング装置、シール塗布装置、OLB装置、検査装置等 |
生活関連 | 業務用洗濯機、洗車機、ホームエレベータ、保安・防災機器、介護機器等 |
アミューズメント機器 | 舞台装置、遊戯装置、バッティングマシーン、ゲーム機器、ゴルフ練習機等 |
環境関連 | 大気汚染防止装置、廃棄物処理・リサイクル装置、省エネ関連機器、風力発電、太陽光発電、電力貯蔵設備、海水淡水化設備等 |
遊園地のジェットコースターや空港のパッセンジャーボーディングブリッジも、実はシーケンス制御で動いています。意外な場所に制御設計エンジニアの活躍する場所があるのです。
つまり、制御設計のスキルを身につければ、幅広い業界へ転職可能。興味のある分野を選ぶもよし、成長産業に挑戦するもよし。とにかく、仕事を見つけやすいのがこの職種の大きな特徴です。
人手不足&需要が多いため年収も年々上がっている
制御設計エンジニアは人手不足で需要も高く、製造系職種の中でも比較的高年収の部類に入ります。
2025年9月時点の求人データによると、制御設計エンジニア求人の平均年収は594.4万円でした。2024年の同時期は546.5万円だったため、わずか1年で50万円ほどの賃上げが進んでいるのです。
この背景にはインフレに伴う企業の昇給対応が影響しています。しかし、どの会社でも同じ水準の年収が得られるわけではありません。重要なのは、売上が安定しており、十分な賃上げ余力のある会社かどうかです。
もし、あなたの昇給額が平均以下であるなら、将来的な給与やキャリアに不安感を持っておくべきでしょう。
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まだまだPLCを使ったシーケンス制御の代替技術は登場しない


シーケンス制御で欠かせない存在であるPLC。2025年もまだまだ現役です。以下の要因により企業によるPLCの採用が続いています。
- 実績が豊富で導入リスクが低い
- コスト面で置き換えが難しい
- 時代に合わせて進化している
代替技術として産業用PCやRaspberry Pi(ラズパイ)での制御が登場していますが、PLCを超える耐久性や保守性はありません。なのでPLCが使われなくなってシーケンス制御が不要になるという心配は、杞憂に終わるでしょう。
実績が多く導入リスクが低い


2020年のコロナショック以降、若干の陰りは見えるものの、PLCの出荷台数は輸出において増加傾向にあります。登場から60年以上経った今でも、堅調な需要を示していることがわかるはずです。
なぜPLCが廃れずに企業が採用し続けるのか。それは導入リスクの低さが大きな要因です。長期的に安定した稼働を前提とする場合、枯れた技術をベースにするほうが保守性に優れています。
新技術を導入すると、
- メーカーを呼ばないと修理できない
- 教育コストが高い
- 部品が高額で納期も長い
といった問題がつきまといます。
その点、実績の豊富なPLCなら自社保全で対応しやすく、教育コストも抑えられる。よほどのゲームチェンジャーが現れない限り、PLCの牙城は揺らぎません。
コストの面でPLCが圧倒的に有利


多くの代替技術はコスト面でもPLCに勝てません。安価に導入できるPLCこそ、枯れた技術を使う最大のメリットです。
日本電気工業会の調査でも、ユーザーがPLCを利用する理由として、実績に次いで価格の安さが挙げられています。
例えば自動車メーカー。年間100台の設備を導入するとして、1台あたり10万円コストを下げられれば、年間1,000万円の削減効果です。数千万から億単位の設備を扱う事業者にとって、PLCの安さと信頼性は欠かせません。
PLCが時代にあわせて進化している


産業用PCが主流にならない理由の一つが、PLC自身の多機能化化です。
例として三菱電機製PLCでは、C言語インテリジェントユニットを使い、産業用PC並みのデータ処理が可能になっています。
さらにLinuxやPythonを用いたデータ分析も実現。制御だけでなく、分析やネットワーク通信までPLC単体でこなるようになりました。
DXやトレーサビリティといった流行の取り組みも、PLC一台で対応可能。メーカーの進化努力があるからこそ、PLCの優位性は今も揺るぎません。
ソフトだけでなくハード設計もできる人材は食いっぱぐれない
制御設計エンジニアの業務内容は会社によって異なります。
- ソフト設計
- ハード設計
- 組み立て作業



私自身(山本)はソフト、ハード、組み立てのすべてを経験してきました。自分で設計し、自分の手で形にすることができます。
2025年現在、PLCを扱える人材は不足しており、ソフト設計だけでも需要は十分にあります。しかし、ハード設計や組み立てまで対応できる人材となると限定的です。
その希少性こそが、転職や独立において大きな武器になります。
なぜハード側のスキルも必要なのか
理由はシンプル。できることの幅が広がれば、需要の範囲も広がるからです。
- 転職なら、応募できる企業が増え、年収交渉でも有利になる
- 独立なら、対応できる仕事が増え、受注のチャンスが広がる
個人事業で「ソフトだけ」「ハードだけ」といった一本足打法を続けるのはリスクが大きいものです。
ソフト・ハード・組み立てまで一通りこなせるスキルを持っていれば、仕事を安定して取りやすくなります。
制御設計はソフトとハードが両輪の仕事。両方を扱える人材は「頼れる存在」として評価されやすく、キャリアの可能性も大きく広がるのです。
制御設計の仕事は脱落者が多い
制御設計エンジニアは需要が高く、続ければ大きなメリットを得られる仕事です。一方で、一定数の脱落者が出てしまうのも事実。
続けられない理由として多いのが次の3つです。
- 納期のプレッシャーに負ける
- 知識をアップデートが負担になる
- 範囲外の分野も学ぶ必要がある
納期のプレッシャーに負けてしまう
制御設計エンジニアは、納期に追われることが日常です。特に調整工程は最後に回されることが多く、残されたわずかな時間で完成させなければなりません。
遅れが出れば客先だけでなく、他のメーカーにも迷惑をかけます。製造業において納期遅延は致命的な失敗。納期に間に合わせるため、遅くまで残業し疲弊していく経験をした人は多いはず。
そんな厳しい環境でも、生き残って制御設計を続けているあなたは、実は優秀な部類の人材なんです。



制御設計を3年以上続けられたら、少なくとも向いていない仕事ではないはずです。転職の際も、多くの企業がポジティブに捉えてくれますよ。
知識のアップデートが負担になる
制御設計は変化の速い分野です。シーケンス制御の基礎だけで十分な時代は終わりました。
- ネットワーク通信の拡大
- 高級言語への対応
- 安全基準の更新
新しい知識は自分から学びに行かないといけません。学び続ける姿勢がないと、あっという間に取り残されてしまうからです。
対して、自ら知識をアップデートできる人は市場価値が高まり、より高待遇で求められる傾向があります。
範囲外の分野も学ばないといけない
制御設計はソフトとハードの知識だけでは不十分です。機械構造やロボット、油圧や空圧といった分野まで理解していないと、最適な制御ロジックを構築できません。
たとえばシリンダ制御でも、空圧と油圧では必要な制御ノウハウが違います。静止時の挙動や動作速度など、制御以外の知識を知っているほど、よりミスのない高度な設計ができるようになるのです。
もちろん、その勉強量が負担になって脱落してしまう人も少なくありません。対して、現場経験とノウハウを積み続けた人材の市場価値は飛躍的に高まります。だからこそ、経験年数が長い人材ほど優遇されるのです。
需要はあるのに人材不足な制御設計エンジニアはブルーオーシャン
制制御設計エンジニアに将来性があるといえる理由は次のとおりです。
- PLCが他の技術に取って代わられることはない
- 製造業全体で人材不足が進んでいる
- 他業種・多職種でもスキルを活かせる
少子高齢化や若者の製造業離れにより、人材不足はますます深刻です。その一方で、工場や設備の自動化は加速し、制御設計エンジニアの需要は高まり続けています。
経験者はもちろん、未経験者でも採用されやすい「ブルーオーシャン市場」なのが制御設計。
この先、制御設計エンジニアが仕事に困ることはまずありません。むしろスキルを磨くほど高収入が期待できる、将来性の大きな職種です。
実際に転職求人データを見れば、求人数の多さと提示年収の高さは一目瞭然。制御設計エンジニアというキャリアが、いかに狙い目かを裏付けてくれるはずです。