電気制御の仕事をしていると「将来性が無いのではないか」といったネガティブな意見を耳にします。
とくに未経験からシーケンス制御の仕事を検討している人にとって、将来性の有無は重要です。
せっかく憧れの仕事に就いたのに「仕事がない…」なんて事態は避けたいところ。
そこで「電気制御にチャレンジしたい、でも将来性ってどうなの?」という疑問に、技術の将来性と仕事の安定性の面から答えていきます。

電気制御エンジニア歴11年の管理人が答えていきます。
- PLCを使ったシーケンス制御に置き換わる技術はないため、将来性を悲観する必要がない
- 「人手不足」「若年層のものづくり離れ」が深刻なので市場が飽和しない
- 転職に強いスキルが身につくので簡単に会社を変えられる
PLCを使ったシーケンス制御に置き換わる技術はない


電気制御で必ず使われるプログラマブルロジックコントローラ(以下、PLC)。2023年現在においてもまだまだ現役です。
2020年に入ってから生産現場でもIoTやトレーサビリティがトレンドとなりつつあります。生産データを処理するため、Raspberry Pi(ラズパイ)のような産業用PCが多く利用されるようになりました。多少の制御なら産業用PCで十分に賄えてしまうほどです。
こう聞くと「PLCは産業用PCに置き換わってしまうのではないか」と考える人もいるかもしれません。安心してください。産業用PCとPLCは棲み分けがなされており、以下の理由から産業用PCに置き換えられることはないといえます。
- 実績が多く導入リスクが低い
- コストの面で置き換えが難しい
- PLCが時代に合わせて進化している
実績が多く導入リスクが低い


一般社団法人日本電気工業会が調査したPLC出荷規模の推移を見ると、合計出荷台数は年々増加の傾向にあります。PLCが登場して60年あまり。2023年現在においても、工場内のほとんどの設備に導入されています。
なぜ今でもPLCが当たり前のように採用されているのか?
その理由は、企業は導入リスクを下げることに重点を置いているからです。設備には高い保守性が求められます。保守性が高いとは、一般化された技術で構成されている必要があります。
新しい技術を導入するデメリットは保守性の悪さです。故障時にメーカーを呼ばないと直せない、教育コストが高いなどの問題があります。実績のある技術で作られた機械であれば、自社保全で対応でき教育コストも低く抑えられるのです。
安心して導入できるPLCを使ったシーケンス制御が求められている限り、廃れることはありません。
コストの面で置き換えが難しい
実際には置き換えるための技術が開発されていますが、コスト面でPLCに勝てていません。
産業用PCを機械を制御するために使うのは高コストです。機械を制御するならPLCが最も低コストで実現できます。


日本電気工業会の2020年度PLCユーザ調査報告書によると、ユーザーがPLCに求めるものに価格が挙げられます。
単純な入出力だけで構成する機械であればPLCで十分です。小規模から中規模の設備においても、30万円ほどでPLCが手に入ります。IoTやトレーサビリティは、小規模の産業用PCを追加して連携させるだけで問題ありません。
自動車系の会社では、数千万円規模の設備を年間数百台と導入しています。低コストで設備を導入するために、安価で実績のあるPLCを使ったシーケンス制御が使い続けられているのです。
PLCが時代にあわせて進化している
産業用PCが設備制御の主流にならない理由は、PLCの進化にあります。


たとえば三菱電機製のPLC。C言語インテリジェントユニットを利用して、産業用PCと同等のデータ処理が可能です。C言語だけでなくLinuxやPythonも利用したデータ分析がおこなえます。
PLC単体で制御からデータ分析、ネットワーク通信ができるため、コスト低減にも寄与しています。流行りのデジタルトランスフォーメーションもトレーサビリティも、産業用PCの出番はなく、PLCひとつで十分なのです。
トレンドが変わるたびにPLCも進化しています。メーカーの努力があるからこそPLCの優位性は維持され、他の技術に置き換えるられることはありません。
シーケンス制御屋が食いっぱぐれない3つの理由


つぎはシーケンス制御は食いっぱぐれない仕事なのかどうかです。結論を言うと食いっぱぐれません。しかも競合相手がほとんどいないブルーオーシャンが目の前に広がっています。
- 人手不足
- 若年層のモノづくり離れ
- 転職先が豊富なのに年収も高い
理由①:人手不足
私が10年前にシーケンス制御屋になったときから、人材不足は顕著でした。2023年になっても人手不足は解消されていないどころか、減少の一途を辿っています。
なぜこれほど人が集まらないのか。その理由は次にあると考えています。
- ニッチすぎる
- 電気を学んだ人しかできないと勘違いされている
- 業界情報が少ない
シーケンス制御業界がニッチすぎる
まず、シーケンス制御業界の認知度は低いと言わざるを得ません。学業としてシーケンス制御をメインに扱う学生がおらず、新卒からシーケンス制御屋を目指す人がいないから。
以下のやりとりは、シーケンス制御の認知度について意見を募集したときのものです。
実際、シーケンス制御業界は未経験からスタートする人が多い業界です。そのためシーケンス制御エンジニアを目指して転職をする方にとっては、チャンスの多い環境であるともいえます。
電気を学んだ人しかできないと勘違いされている
他部署のメンバーをスカウトした際に、全員が口をそろえて以下のように返答しました。



電気を学んだことがないから無理
シーケンス制御は電気がわからないとできないのでしょうか?現実は電気のことを何も知らなくても、シーケンス制御エンジニアになれます。
電気の知識があるに越したことはないですが、ゼロスタートでやりながら覚えていった人ばかりです。知識がないとシーケンス制御エンジニアになれない、といったことは無いので安心してチャレンジしてください。
業界の情報が少ない
シーケンス制御業界の情報は、ほとんど流通していません。PLCメーカー各社や日本電機工業会が業界の情報を発信していますが、真面目な内容すぎて読むのがしんどいのが本音です。
最近では業界内の情報をブログで発信する人も増えてきました。それでも機械設計といったメジャーな職種とくらべて、情報発信者が少ない傾向にあります。
さらに技術を解説したブログは多くあるにもかかわらず、業界の事情について書いている人はほとんどいません。転職を検討するさいに知りたいのは、年収や仕事内容、会社の選び方、転職方法などの業界情報です。
シーケンス制御業界の内情は不透明。シーケンス制御の仕事を選びにくい環境こそが、技術者が増えない原因でしょう。
理由②:若年層のモノづくり離れ
シーケンス制御屋が食いっぱぐれない理由の一つに、若年層の製造業離れが関係しています。


ものづくりに関わる若年層の労働人口は、2,000年以降右肩下がりです。「きつい」「汚い」「危険」の代表でもある製造業は、若年層にとって魅力がなくなりました。
しかし、若年層の製造業離れにこそチャンスが隠れています。
- 工場の自動化で仕事が増える
- 機械の保守、改造の仕事が増える
工場の自動化で仕事が増える
労働者を確保できない分は機械にやらせるしかありません。どの工場でも機械を使った自動化に頼らざるを得ない状況であり、工場の自動化はこれから先のトレンドです。


製造業の景気を測る指標である工作機械受注統計を見てみましょう。2020年のコロナショックを除き、機械の受注数は緩やかに増加しています。年々工作機械の需要は増えているということです。
製造業が人材不足で苦しむ現状が続いている間は、自動化はより一層加速します。シーケンス制御屋の仕事も増えるため、需要がなくなることはありません。
機械の保守・メンテナンス需要が増える


シーケンス制御屋には、保全やサービスエンジニアとしての需要もあります。工場の自動化が進めば、それを保守するエンジニアが必要です。
保全のシーケンス制御屋は、設備トラブルによる損失を最小限に留めるデバッガーのような存在です。トラブルの原因を経験と知識を使って特定し、適切な修理を施すスキルが求められます。
設計を主業務とするエンジニアと比べて、求められる能力は違います。しかし土台となるシーケンス制御の技術は共通です。少し視点を変えれば、シーケンス制御のスキルを活かす方法はたくさんあります。
今後も保全やサービスエンジニアの需要は増加していくはずです。メンテナンス業務としてのシーケンス制御屋の需要は尽きません。
理由③:転職先が豊富なのに年収が高い
シーケンス制御屋はどの会社からも引っ張りだこ。求人は星の数ほどあるのに、平均年収は民間企業の平均450万円を超えています。
- 幅広い職種に仕事がある
- 業種が豊富なので興味のある職を見つけやすい
- 人手不足&需要が多いので年収も高い
幅広い職種に仕事がある
シーケンス制御屋といえば、新しく機械設備を作る仕事だけではありません。シーケンス制御屋の仕事は多岐にわたります。
- 新規設備の設計
- 設備保全
- サービスエンジニア
- フリーランス
機械の保守・メンテナンスが増えるで説明したとおり、シーケンス制御屋が求められているのは設計だけではありません。保守に携わるエンジニアも広く募集されています。
フリーランスで働くシーケンス制御エンジニアも多いです。独立して自由な働き方を目指したり、より稼げる仕事へチャレンジしたりといった理由で独立している人とも出会ってきました。
シーケンス制御のスキルを活かせる職種は多いです。スキルを求める会社も多いため、転職しやすい環境が整っています。
業種が豊富なので興味のある職を見つけやすい
シーケンス制御のスキルが求められている業種は、工作機械などの製造メーカーだけではありません。
分類 | 用途例 |
---|---|
設備監視・制御 | プラント(上下水道・水処理・ゴミ処理)、ビル監視システム、受変電設備監視システム、植物工場等 |
ライン制御 | 自動車組立てライン・塗装ライン、鉄鋼圧延ライン・連続鋳造ライン、各種試験ライン等 |
搬送設備・運搬機械 | クレーン、コンベア、エレベータ、駐車装置、立体自動倉庫装置、新交通システム、トンネル換気設備等 |
製紙・印刷機械 | 抄紙機、ワインダ、スリッタ、製本機械、印刷機械、新聞輪転機等 |
繊維機械 | 紡糸機、仮より機、延伸ねん糸機、織機、編組機、染色仕上機等 |
食品・包装機械 | 製パン機、製菓機、製茶機、製麺機、精米麦機、製粉機、ミキサー、スライサ、内装機、荷造り機、外装機、ラップ包装機、飲食物包装機等 |
半導体・液晶製造装置 | ウェハー製造装置、ステッパ、洗浄装置、PI印刷装置、ラッピング装置、シール塗布装置、OLB装置、検査装置等 |
生活関連 | 業務用洗濯機、洗車機、ホームエレベータ、保安・防災機器、介護機器等 |
アミューズメント機器 | 舞台装置、遊戯装置、バッティングマシーン、ゲーム機器、ゴルフ練習機等 |
環境関連 | 大気汚染防止装置、廃棄物処理・リサイクル装置、省エネ関連機器、風力発電、太陽光発電、電力貯蔵設備、海水淡水化設備等 |
遊園地のジェットコースターなども、よく見るとシーケンス制御が利用されています。他にも飛行機に搭乗する際の通路となるパッセンジャーボーディングブリッジも、シーケンス制御によって動いています。
シーケンス制御のスキルを身につければ、ありとあらゆる業界への転職できます。あなたが興味を持てる業界を選ぶもよし、成長している業界を選ぶもよし。とにかく仕事を見つけやすいのがシーケンス制御屋の特徴です。
人手不足&需要が多いので年収も高い
シーケンス制御屋の人手不足、および需要が高いことはこれまでの説明でご理解いただけたと思います。そのため数ある製造系職種の中でも、高年収である点が特徴です。
シーケンス制御エンジニア向けの求人が提示している年収は、平均540.12万円であることを知っていましたか?これは民間企業の平均年収450万円を100万円近くも越えています。
未経験者向け求人の平均年収であっても平均484.93万円です。無資格かつ未経験から始めて、年収450万円以上も貰える仕事はなかなかありません。


ただしシーケンス制御の仕事は難しいところもある


需要があって食いっぱぐれない仕事となれば、シーケンス制御エンジニアを目指すメリットは大きいと思っています。しかし次のことを覚悟しておかないと、シーケンス制御エンジニアを続けるのは難しいです。
- 納期のプレッシャーと戦うこと
- 知識をアップデートし続けること
- 範囲外の分野を学ぶ熱心さを持つこと
①納期のプレッシャーと戦うこと
シーケンス制御屋は、納期という強いプレッシャーを背負って働く仕事です。与えられた時間内に何がなんでもやりきれる人でないと、シーケンス制御屋になるのは難しいでしょう。
担当する設備で納期遅延を起こせば、客先だけではなく、他のメーカーにも多大な迷惑がかかります。シーケンス制御屋は、実力がすべての仕事です。決まった納期までに機械を仕上げるスキルが求められます。



製造業において、納期遅延は最悪の不手際です。
②知識をアップデートし続けること
シーケンス制御は、常に知識のアップデートが必要です。エンジニアに求められる技術は日々変化しており、ネットワークの領域まで広がりつつあります。PLCのIoT対応化に伴い、機械学習に強いPythonに対応した製品も登場しました。
ネットワークの知識だけでなく、コンピュータプログラミングが必須となる時代も目前です。電気回路を設計できる、ラダー言語を扱える以外にも、スキルに付加価値が求められています。
基本がわかれば食っていける時代は終わりました。今は、知識をアップデートし続けられる人だけが生き残れる世界です。



シーケンス制御界において、プログラミング経験者の人材価値が高まっています。
③範囲外の分野も学ぶ熱心さを持つこと
機械構造やロボットなどの分野についても勉強してください。電気回路やラダー言語の知識があっても、機械を思った通りに制御するのは難しいからです。
動作ひとつにおいても、動力源が違えばベストな制御方法は変わります。同じシリンダでも気圧か油圧かで制御方法を変えないといけません。たとえば、動作端の確認に必要なタイマー設定が変わるからです。
機械構造について学ぶ姿勢がシーケンス制御屋には必要です。シーケンス制御だけに特化している人で、優秀なエンジニアはいません。



シーケンス制御を続けていると、多種多様な知識が身につきます。
需要があるのに人はいないからシーケンス制御屋には将来性がある
シーケンス制御屋に将来性があるといえる理由は以下のとおりです。
【シーケンス制御屋に将来性がある理由】
- PLCが他に取って代わられることはない
- 製造業にかかわる人材の不足
- 他業種・多職種でスキルを活かせる仕事がある
PLCがまだまだ現役であり続けているにもかかわらず、エンジニアを欲している企業が数多く存在しています。それでいてエンジニアの数は不足しており、経験者だけでなく未経験者にも需要がある仕事です。
シーケンス制御エンジニアの将来は明るいですし、食いっぱぐれてしまうことはありません。求人数の多さと提示年収の高さが証明しています。
これからシーケンス制御屋を目指すあなたへ、将来性について心配せず業界に飛び込んでみてください。